旅の途中

妖かし草子

今年の初観音の日、浅草寺ではこの世に蔓延る魑魅魍魎や亡者を

供養して閉じ込めてしまうという「観音秘密供養」が行われましてね、

これで浅草の魑魅魍魎や亡者もオトナシクしているだろうと

思っておりましらた、

なんと吉原あたりに妖かしモノたちが集まっているとの情報に

「なんでやね!」

とその真相を確かめるべくその舞台になっている吉原に

はせ参じたのでございますよ。

吉原といってもアタシの仕事先から目と鼻の先でございますから、

まあ、散歩がてらの物見遊山でございますな。

吉原といえば、アタシの仕事のお得意さんだった松葉屋さんが

思い出されますな。

女将の福田利子丈には大変お世話になりました。

勿論、売春防止法成立後でございますから、

松葉屋さんが花魁ショーや落語会などで、江戸文化を

大切に守っていた時期でありましたな。

(妖かしき者達)

アタシも何度か落語会にははせ参じましてね、

今でも記憶に残っているのは、

演芸場や、ホールでは絶対にやれない ばれ話を

若かった七代目立川談志師匠が色っぽく演じてくれた

高座などはもう宝物に出遭ったような心地でしたな。

その松葉屋さんもとうとうこの世から消えてしまいました、

女将の利子丈もそして談志師匠もみんなあちらに行って

しまいましたよ。

もしかしたら、本日のお化け集団の中に紛れていやしないかと

そっとあたりを見回しながらやってきましたその賑わい場所へ、

昔、節分の日に仮装して鬼を追い払う風習が吉原では

恒例だったとか、

その吉原お化けをもう一度この世に復活させようと

「吉原節分おばけ仮装コンテスト」

が開かれているそうじゃないですか。

いるわ、いるわ正体不明のお化けや幽霊がどっさり、

お尻に尻尾がある巫女さん、九尾の狐、

どう見ても亡者そのもののアヤカシたち、

みんな嬉しそうに跋扈している姿いとおかし、

容姿格好も面白いが、その謂れ薀蓄(うんちく)が

これまた愉快でありますな、

コンテストですので、投票用紙が配られ、アタシもその一票を

頼まれましてね、

美人のコンテストならワクワクしますが、お化けとなると

初めてのことですから迷いますな。

容姿格好で見惚れたのが、百目お化けと巫女狐、

薀蓄では、死に顔のサムライで、

遊女と心中してあの世で迷っているうちに

突然

この舞台に登場してきたそうで理由は自分でもわからない 

なんていうコメントが秀逸でございますな、

顔にある傷は追っ手に切られた刀傷、髷も地毛という

念の入れように本物の幽霊を見ているようでしたよ。

圧倒的に狐面が多かったですが、その表情を見ていると

もしかしたら中身は本物の狐じゃないか

と思わせる怪しい挙動もあり、観ている方もここが

  この世なのかあの世なのか

わからなくなりましたな、

それぞれのお化けさんたちの気合と勇気に拍手喝采、

浅草は普段でも百鬼夜行の跋扈する町でございます。

まあ、これくらいのお化けで驚いていては毎日の身が

もちませんですがね。

今年で四度目のコンテストなんだとか、会場を見つめていると、

絶世の美女が

うつろな眼でこちらを見つめている視線に思わず

背筋が凍りつきました、

あれは本物の幽霊ですよ・・・

さてこのお化けコンテスト、西洋お化けでなければ仮想、変装、異装、

何でもありとのこと、今年で四回目ですから、もうあの世でも評判に

なっていることでしょう、

 助六や花魁高尾太夫、

 身体中に経文を書いた琵琶法師、

 はたまた怨霊となった将門や道真公

にも招待状を送られたら

もしかしたら本物が現れるやもしれぬと想像するだけでも

背筋がゾクゾクしそうですな。

それでは来年を楽しみに。

(2016.02.07の記録ですが、故あって再登場でございます)

Categories: 日々

『鳩の街通り商店街』 » « 迷宮の扉

2 Comments

  1. まあ!
    なんと粋な企みですこと。来年はきっと私が最優秀賞を狙いますね。
    このままの姿で、砥石と包丁をかざして舞台にあがるだけで、蘊蓄なんていりませんわ
    「おっ!山姥じゃ~逃げろ!」ってね
    冗談はほどほどにして、まじめな話
    実は私、昔から吉原にはひとかたならぬ思い入れがあります。
    何故か理由はよくわからないのですが・・・・
    ムズカシイ研究本はむりですが、巷に氾濫する吉原関連の本は、手当たり次第に読みあさっています。いつか・・・もう一回何かを書くとしたら、きっと吉原を題材にしたいとおもうほどの入れ込みようなのですけど、ま、無理ですね(笑)
    まず、色艶皆無のBABAですから。

    • 旅人 散人

      2016年2月9日 — 3:27 PM

      まい様
      立春が過ぎたとはいえまだまだ寒い日が続きますが、
      浅草は今でも魑魅魍魎や亡者、妖かしモノ、はては
      貧乏神なんていう輩が跋扈しておりますので、油断も
      隙もありませんですよ。
      それでも、近頃の若い方々は、幽霊やお化けにユーモアを
      重ねる傾向がありましてね、笑い飛ばしながら自ら成り切る
      お化けが出てくるところは浅草いまだ健在なりでございます。

      吉原は悲しい話ばかりが強調され過ぎるきらいはありますが、
      江戸文化をしっかりと残し続けた功績も見極めてほしいもの
      ですね。

      妖かしモノの中では、昔から狐が親しまれているのは、
      悲しすぎる話を人間界だけに留め置かない力が働いている
      のかもしれませんね。
      祭りの中で演じられる奉納神楽でも、狐が登場すると急に
      場が和むのですから、長い歴史の中で人間の感性の中にまで
      狐が入り込んでいるのかも。

       生きては苦界 死しては浄閑寺 花酔

      の句がある浄閑寺、吉原神社、吉原弁財天本宮を訪ねると
      今でも胸が痛みます、この世には表と裏があることを知った
      上で、笑いを噛み締められたらと願うばかりです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

Copyright © 2024 旅の途中

Theme by Anders NorenUp ↑