このところ鬼姫さまが外出したがらなくなってしまった、

「そうやって家にこもってばかりいると老けてしまいますよ」

「もう十分老けていますよ」

なにしろ、両親の亡くなった歳が同じだったため、自分もその歳まで

しか生きられないと信じているらしいのです。

「いくら親娘でも寿命はみんな違います、アタシがお伴しますから

どこか好きなところへ旅でもしましょう」

すると、行きたいところを言ったことのない鬼姫さまが

「一箇所だけ行きたいところがあります」と

どうせそこまで行くのなら、両親のお墓参りにも行きましょう、

しかし、以前飛行機で旅をした時具合が悪くなり、それ以来飛行機は

乗りたくないというのです。

両親の眠る地は九州筑後川の辺のお寺さんなんです、

「それでは余分に休みを取りますから、列車の旅にいたします、

それに飛行機だと途中下車できません、列車なら気が向いたところで

下りて美味しいものでもご馳走しますから」

とやっと、旅をすることになりましてね。

鬼姫さまがまだ小娘だった頃、寝台特急で東京から博多までは丸一日かかって

いたんだそうで、それが今は新幹線で5時間で着いてしまうのですね、

飛行機だと1時間40分、どうも旅が味気なくなりますね、

新幹線ならゆっくり旅ができるというのも何だか感覚がずれて入る気がしましたが

とりあえず博多行きの のぞみ に乗車、

アタシの旅は、今まではほとんど自分でハンドルを握っての移動でしたから

案外周りの景色など覚えていないものなのです、

京都・大阪・四国、山陰、九州など何度自動車を走らせたことか、

ところが、アタシも歳をとりまして、そう長距離はできなくなりましてね、

列車の旅に変えてからは、なんと楽なことか、

今は何処へ行くにも列車ばかり、変われば変わるものですよ。

まるで旅の無事を表すかのような秋晴れ、

車窓から見える富士の山は平年よりだいぶ遅れての初冠雪、

朝日にきらきらと輝く様いとおかし・・・

などとほざきながら熱い珈琲をすする、

東京駅を出発した新幹線は、名古屋まで1時間40分、京都まで2時間20分なんですね、

「これなら、ちょいと京都まで、一箇所紅葉を愛でて先斗町あたりで旨い食事して

何気ない顔で家に帰れるな・・・」

なんてほくそ笑んでいると

「また何かタクランデいますね」

と隣の席から鬼姫さまのひとことに

「いえ、どこで途中下車するか考えていたところです」

「まもなく広島に到着いたします」のアナウンスに

「ここで下りましょう」

広島というと原爆ドームばかりが気になってつい背筋を伸ばしてしまうのですが

今回は三度目の訪問、

広島の繁華街を歩く、

なんだか東京の街を歩いているような気分、つい最近起こった水害の支援を訴える

ポスターが秋の風に揺れるばかり、

「広島といえば・・・やっぱりお好み焼きでしょう」

と以前行ったことの在る店を探したが全く記憶に残っておりません、地元の方に

お聞きしたお勧めの店へ、

なるほど昼間から行列ができておりますよ、

急ぐ旅ではないので東京でなら絶対にやらない行列待ちへ、

アツアツの広島焼きが運ばれてくる、

東京の神楽坂にある広島焼きの店にはちょくちょく寄るのですが、

さすが本場の味は野菜たっぷりに甘いタレがあたし向き、いやいや安くて

旨い広島焼きかな。

本日の目的地は一箇所だけ、

広島駅から山陽本線で向かった先は・・・