「それ男神女神のことわりをあげ わざおぎす

 二柱の神 よき日よき時をうらえて 天の浮橋の

 上に立たし 天の沼矛を降ろし 国をさぐり申し

男神  うまし おとめに あいぬ

女神  うまし おとこに あいぬ

 よいかな 国のありけること

 これ自ずから成る島こそ 代々のたね久し」

この段は古事記にある島々生成を題材に演じられるものらしく

日と月が天と地を廻っているようにとても明るく喜びの溢れた

神楽のようです。

(伊邪那岐命)

今回、浮橋之段を見るのは二度目ですのでゆったりと鑑賞できそうです。

現天皇様が川越を訪れたおり、この八洲起源浮橋事之段を

所望され鑑賞されたというありがたい神楽なのです。

舞台中央に橋が置かれています、これは神が天から降りて

こられた時に天と地のあいだに掛かっていた 天の浮橋で、

面をつけた二人の神が登場します。

(伊邪那美命)

男神は伊邪那岐命(いざなぎのみこと)で、腰に太刀携え、

手には日形と扇と鈴を持って舞います。

女神は伊邪那美命(いざなみのみこと)で手に月形と扇と鈴を

持って舞い始めます。

伊邪那岐命と伊邪那美命は天の浮橋から沼矛で海中をかき回し

引き上げると、矛の先からしたたる塩が固まり島がひとつ

できていきます。

こうして次々に沼矛を引き上げ八つの島を生み出すのです、

これこそが大八島(日本国)の誕生起源の喜びを表す神楽

なのです。

古事記では男神と女神の交わりをあらわすくだりがありますが

この神楽ではどのように表現するのか息を殺して見つめて

おりました。

伊邪那岐命と伊邪那美命の面の表情が、舞い姿の中で

異なった表情を見せてくれるのは、この神楽の奥の深い

表現なのかもしれません。

 歌  妹と我と いるさの山の

     山あららぎ 手なとりふれぞや

      香をかをすがにや 香をかをすがにや

今回は二度目でしたが、さらに三回目、四回目と見るうちに

もっときめ細かな表現を見つけることができるやもしれません。

何度でも見たくなる素晴らしい神楽でございます。

江戸里神楽はほとんど無言での舞いですが、ここ鷲宮催馬楽神楽では

歌が入るのです。

最も催馬楽とは平安時代に隆盛した歌謡のことですので鷲宮神楽では

最後まで耳を澄ませて見つめております。