遠く筑前は大宰府天満宮にて毎年正月七日にうそかへ

という神事が行われておりましてね、

その大宰府から飛んできたのは飛び梅だけではありませんで、

鷽(うそ)という鳥もはるばる江戸まで飛んできていたんですよ。

平素から知らず知らずのうちについていた嘘を、

天神様の「まこと」に替えていただけるという、

ちょっとムシのいい神事なんですよ、

口先で生きてる江戸っ子がこんなおいしい話に飛びつかない

はずはありませんですよ。

江戸の天神様でこの鷽替え神事を行っていただけるのは、亀戸天神社、

湯島天満宮などで、木彫りの鷽鳥を押し頂いて、昨年いただいた

鷽鳥と入れ替えることで嘘を嘘鳥が運んでくれるとということ

らしいのです。

平素から知らずについていただけではなく、へらへらと嘘八百並べて

悦にいってる嘘つき爺は、こう真っ向から

「お前さんの嘘を「まこと」に替えてやろうじゃないか」

なんて天神様に言われてごらんなさいましよ、

「へへっ」と平身低頭して天神様へ駆けつけるのでございます。

どうも、嘘つきのわりに疑い深いのがフーテン爺というもの、

以前亀戸の天神様にお願いしたから、

今年は湯島の天神様にお願いしてみよう

となんだか様子を伺いながら、落ちた体力を気にしながら

女坂をよたよた上るのでございますよ。

そうそう正月二十五日は初天神でしたね、

ところが境内は、嘘などつかない若者達が、

合格祈願に押し寄せているではありませんか、

その奉納された絵馬の山をみただけで、

「こりゃ、天神様も若者の「願い」を聞き入れるだけで

手一杯じゃないですかね、

とても、コケの生えた爺の嘘など聞き入れてくださるか 

またまた疑い深くなるのでございますよ。

それでもせっかく御参りにまいりましたので、

お賽銭を奮発して手を合わせ、

あの木彫りの鷽鳥をいただきましてね、

大きさは小と大がありますので、なるべく大きいほうが

沢山嘘を運んでくれそうな気がして、間髪いれずに大きい鷽鳥を

押し頂いたというわけでございます。

意気揚々と境内を歩けば、早咲きの梅が馥郁たる香りを漂わせるので

ございます。

ずらりと並べられた書初め作品の中に

89歳の老婦人の力強い 飛翔 の文字、

こりゃ、へらへら笑ってる場合じゃありませんですよ、

もう少し真面目に生きないと とアラタメテ新年の言祝ぎを

心に刻み付けたのでございます。

境内を一周してもとの場所に戻ると、あの膨大な絵馬の山が

どうしても気になるのでございまして、

「やっぱり天神様は未来ある若者の願いをお聞き届けになって

嘘つき爺の願いなど聞き漏らされるのではないか」

とまたまた心配の種、

えい、悩むよりまず行動を と思い出したのが、

牛天神北野神社でございますよ、

こちらも、源頼朝公に縁のある古社でございます、

夕日が沈む前にお訪ねすると、湯島の賑わいが嘘のような

静けさでございます、

「これなら、アタシの嘘もお聞き届けてくださるに違いない」

と手を合わせ、社務所で 鷽鳥を所望すると

なんと、奉納金が湯島の三倍でございますよ。

きっと効き目があるに違いないと、小さくとも丁寧な作りの鷽鳥を

いただいて

「小さくても、値が高いから効き目もあるに違いない」

と先ほど大きさで欲を張ったことなど忘れて、にこにこしながら

ふたつの鷽鳥を手に歩く気分は晴々とした初天神でございました。

こちらの牛天神は紅梅が美しい神社で、もう花開いた梅の木から

いい凝りが漂ってまいります、

あの、これは嘘ではございませんから念のため申し添えておきますよ。