珍しく机に向かって真面目に仕事をしておりましたら

時間の観念が無くなっておりまして、

「アレ、もうこんな時間か」

と丸まった背中を伸ばしてあくびをひとつ、

「そうだ、今日は鷽替の日だった」

アタシは日頃からあっちでウソ、こっちでウソなんて生活を

楽しんでおりますもので、この日だけはお参りにいかないと

あとあとあの世に行く前に閻魔様に舌を抜かれちまいますよ、

江戸っ子ってェのは、口先三寸で生きてますから、そのうち

どれがウソで、どれが本当かわからなくなっちまうのですよ。

そこへ天神様が救いの手を差し伸べて下さったのですよ、

「お前さんがついた嘘を誠に替えてやろうじゃないか」

と可愛い鷽鳥を遣わしてくださるのが毎年1月24日、25日、

そう初天神なんですよ。

「仕事は明日でも出来るさ、鷽替は待ってくれませんよ」

と慌てて飛んでいったのが江戸の昔から人気の亀戸天満宮、

初梅の紅梅の香りをかきながら赤鳥居をくぐり、太鼓橋を渡ると

「なんじゃこれは」

初詣かと想うほどの人・人・人・・・

嘘つきはアタシくらいなものだろうと想っていたのに、

いやはや、腹に一物ありげな人がこんなにいたのかと

びっくりするやら 安心するやら、

何しろお参りするだけでも長蛇の列、お目当ての 

鷽鳥を手にするには太鼓橋を戻って池の周りをくるりと

取り巻く行列の最後尾に着かなけりゃならないというわけ。

うーん、ココが思案のシドコロとしばし立ち止まって、

「待てよ、昨年いただいた 

  鷽鳥が我が家にまだ鎮座しておりましたな」

えいままよ、昨年の鷽鳥にもう一年頑張ってもらってもバチは

当たらないだろう

と嘘つき特有の考えで今年は所望を諦めましょう。

それでも、やっぱり気になるのが、身体にこびり付いてる 

「ウソ」、

比較的空いてる社務所に伺って眺めれば、

ありましたよ、

「うそ守り」に「うそ土鈴」に「うそ笛」、

 さらに「うそカード」に「うそストラップ」

まさか神様がお売りになられておりますので、

効き目が ウソ なんてことはございませんでしょ。

ウソをつきたくなったら吹いてみるのに「うそ笛」を、

ウソをついちまった時にそっと握り締める「うそ守り」、

そして家の鍵をつけておくために「うそストラップ」を、

遅くなった理由を鬼姫様に報告するときにきっと勇気を

与えてくださるでしょう・・・

でも、すぐ見破られるかな、

鬼姫様は神様より直感力があるのですからね、

とひとまず三点セットを所望いたしました。

(今年も咲きました「月影」一輪)

縁起物というのは、信じるか、信じないかでその効果が

月とスッポンほど違うわけで、アタシは硬く信じて

その三点セットを押し頂いてホッとしていると、

舞殿から天神囃子が聞こえてまいりましたよ。

今年もお世話になる祭り囃子をいち早くお聞かせいただき

心が晴々いたしました。

さてと、今日だけはウソのない生活をいたさねば・・・