「あだし野の露消ゆる時なく、鳥部山の煙立ち去らでのみ住み果つる習ひ
 ならば、いかにもののあはれもなからん。世は定めなきこそいみじけれ。

 命あるものを見るに、人ばかり久しきはなし。かげろふの夕べを待ち、
 夏の蝉の春秋を知らぬもあるぞかし。つくづくと一年を暮すほどだにも、
 こよなうのどけしや。飽かず、惜しと思はば、千年)を過すとも、一夜
 の夢の心地こそせめ。住み果てぬ世にみにくき姿を持ち得て、何かはせん。
 命長ければ辱多し。長くとも、四十に足らぬほどにて死なんこそ、めやす
 かるべけれ。

 そのほど過ぎぬれば、かたちを恥づる心もなく、人に出で交らはん事を思ひ、
 夕べの陽に子孫を愛して、さかゆく末を見んまでの命をあらまし、ひたすら
 世を貪る心のみ深く、もののあはれも知らずなりゆくなん、あさましき。」

              吉田兼好 「徒然草」七段より

兼好先生に指摘されるまでも無く、現代の日本人は世界中で長生きする人類の

代表になってしまいましたね。

兼好先生の時代は 四十を過ぎると人は外見を恥じる気持ちもなくなり、

人前に哀れな姿を出してでも人と交わろうとするだろう、まして死期が近づくと、

子孫のことを気にかけるばかりで、孫やひ孫の将来まで長生きしたくなる、

この世の安逸を貪る気持ちばかりが強くなって、風流や趣深さもわからなく

なってしまうのだ、情けないことだ、と書き残しているんですよ。

やれやれ、現代は四十なんて洟垂れ小僧で、七十、八十は当たり前の

世の中になってしまいました。

生き恥さらしながら生き抜くというのも、なんだか悲しい末路じゃ

ないですかね。

世界一の長生き国なんてなんの喜びもありゃしないのですよ、

老人が長生きすると、全国民皆年金のこの国では国自体が疲弊していく

結果を招いているんです。

でも間違ったって、老人は長生きするなとは言えないでしょ、

もしですよ、選挙権が70歳以上はありませんと法律改正にでもなったら、

多分、あっというまに、老人に冷たい風が吹き始めるでしょうね、

だって今の選挙で投票に行くのは圧倒的に老人ばかりなんですからね、

そりゃ、政治家だって投票権を必ず行使する老人に聞こえのいい政策を

優先させるに決まってますよ。やっと若者の十八歳以上に投票権が与えられ

ましたが、投票権を持った二十代、三十代は行っても変わらないと投票拒否、

となれば、老人を大切にする政策ばかりがまかり通るのですよ。

その結果が、世界一の借金国というわけ。

すると、此の国は老人による老人のための国、そんな国に未来など

あるわけはありませんよね。

医療の発達は、死ぬことも出来ないことになるのですよ、

ちょっと身体が変だと思えば、暇な老人は、一箇所の病院では心配だと

二箇所も三箇所も病院通い、放っておけば無事死ねるものを、死なない治療を

受けることになるのですよ、老人が長生きすると医療費、年金、が膨大に

ふくらみ続けてやがて国は滅びるのでしょうかね。

兼好先生は草葉の陰で、

「ほら、言ったこっちゃ無いじゃない・・・」

と呟いているのでしょうかね。

さらにですよ、IPSなんとかなんていうものが出来上がってくると、

120歳なんていう老人がうようよするのですかね、いや、死なない人間が

そこら中にはびこってきたら、そんな世の中に生きて居たいですか・・・

千年前にもあったという猛暑

ああ、どうやら暑さで頭をやられたようです、

いいことが考えられません、

いやなことばかり思いついてしまうのです。

これも 千年猛暑 のせいですかね。

そうか、こういう時世では余計なことは口にしないことですな、

つまらないことを言って、社会を惑わす悪者だと成敗されて

この世の終わりにされちゃかないませんからね。

まだまだ、やりたいことが沢山あるのに、いつのまにか爺の仲間入り、

逝くときはのた打ち回らないでボソっと行きたいものですな。

こんな猛暑の中を生きなきゃならないのも、生きながら地獄に落ちて

しまったと云うことかも・・・、

これが 千年猛暑 の本当の正体なのかもしれませんよ。