浅草生まれで浅草育ち、最後まで浅草に

拘ったKさんは、

「なんだか身体がだるくってよ」

と言って横になった。

何日寝てても一向に良くなる気配がない、

「一度病院で見てもらいなよ」

というみんなの進めも

「俺は病院には絶対行かないぜ」

と拒み続けていた。

あまりの衰弱ぶりに無理やり病院へ運び込むと

生まれて初めて行った病院の先生から

「手遅れです」

チャキチャキの浅草っ子のおかみさんもさすがに

落ち込んでしまった。

アタシらも観音様に手を合わせてKさんの無事をお願いいたしまして

ふと見上げれば、天井の天女様の顔がおかみさんさんの顔に

見えるのでありましてね。

それからひと月、

いくら観念してたとはいえ、一言も愚痴もいわず

痛いとも言わずに あっけなく逝っちまった。

何もこんな時までセッカチにならなくたって

いいじゃねーか。

250人もの人がKさんとの別れに集まった。

無口だけど優しかったKさんの生き方が

みんな大好きだったんだよ。

「お通夜が誕生日だというのでケーキに蝋燭立てて

祝ってやったんだよ」

しんみりと語ったあの日からまだ間が無いある日

おかみさんがお礼をかねて挨拶にきてくださった。

「なんだい、浮かない顔してさ」

「ちょっと聞いてくれるかい、あいつ他に女がいたんだ

 アタシだって一緒に浅草の町を手を組んで歩いたことなんか

 なかったのにさ、その女とちゃらちゃら歩いていたんだ」

「おかみさん、まあまあ落ち着いて、この間の葬儀にさあんなに

人が集まってくれたろ、Kさんはみんなに愛されていたって

ことだよ、男も女もなく みんなに・・・」

「オレたちのKさんにそんな浮いた話があったなんてますます

男が上がるってもんさ、それにおかみさんの大切な旦那がそれだけ

男ぷりが良かったということじゃないか。あの生き方がみんな

大好きだったんだから、おかみさんもゆるしてあげておくれよ、

もう仏さんになっちまったんだからさ」

あの気丈夫なおかみさんがぼろぼろと涙を流した、

「Kさんが真っ直ぐな気性を最期まで貫けたのは、おかみさんが

ささえていたことは、オレたちみんな承知なんだからさ、Kさんの

代わりはできないけど、みんなでおかみさんを支えていくから

前を向いて生きていって欲しいんだよ」

しばらく嗚咽していたおかみさんは キッと目をあげると、

「そうだったね、もう仏さんになっちまったんだ、

 今日は祥月命日だからお墓参りにいってくるよ」

「思い切りお墓に水まいておやりよ、そしたらすっきりするからさ」

戸口で振り返ったおかみさんは、ぺこりと頭を下げると

ニッコリと笑顔をみせてくれました、

源さんとアタシはお互い顔を見合わせてわが身を想うので

ございます。

クワバラ くわばら!

(平成28年10月 記す)