雨の夕暮れ、もうあらかた観光客は帰ってしまったようです、

京成電車がホームに入ってくると、仕事を終えた地元の人が戻ってくる、

それぞれの自宅に帰ってしまうと参道から人影が消えた。

「静かなもんだね」

佃煮屋のオヤジさんは店仕舞いの手を休めずに

「こう寒くちゃ客だって帰っちまうよ」

お猪口を口に運ぶ仕草をするとニヤリと笑った。

「おばちゃんが亡くなったんだ」

「オヤジさんのおばちゃんかい」

「違うよ、寅さんのおばちゃんだよ、大往生だって話だよ」

何だか、本当にこの町から消えてしまったような気がしています。

「寅さんも、おいちゃんも、そしておばちゃんにタコ社長、

みんな旅たってしまったんだね」

「後はオレたちが守るっきゃないよな」

山門を潜ると、正月や庚申の人出がウソのように境内は

静まり返っています。

寅さん一家の無事を祈って、ついでにアタシの旅の無事もお願いして

まいりました。

それにしても静かですね、

そうですよ、アタシの家だって、怒鳴り散らしていた明治男の親父が

旅たち、粋な小唄を爪弾いていたおふくろが旅たち、

いよいよアタシ等が先頭グループに躍り出たわけで、

もう何時その時が来ても覚悟だけはしておかなきゃネ、

神妙な気分で参道を戻りかけると、いい匂いが鼻をつく

「鰻か・・・、一丁自分に御褒美をあげるか」

ガラス戸あけて、

「御姐さん、鰻重頼むわ、梅でいいよ」

別に値段で安いヤツにしたんじゃありませんよ

昔はご飯大盛りにしてもらっていたのに、今じゃ量の一番少ないヤツしか

食べられなくなっちまいましたよ、

これも、老人になったしるしと思うべしですな。

ホロホロと 鰻食うかや 宵の雨  散人

なんだかしんみりしちまいましたね、

こういう日があるから、晴れた日が輝くんですよ、

そのうち遅れている梅が咲き出しますよ、

遅いか早いかはあっても、花の咲かない春はありませんからね、

「ゆく河の流れは絶えずして
 しかも、もとの水にあらず・・・ か」

さてと、また一歩前を向いて歩き出しますかね、