春を告げる花は数々ある、
水仙、満作、菫、辛夷、蕗の薹、そして梅、
中でも東風吹く頃の梅の花は、都会暮らしには
なくてはならない花ですよ。
この梅の木が中国からこの国にもたらされたのははるか遠い
時代だったらしい。
この梅ノ木が現代では花とその香りで春告花としての地位を不動
のものにしておりますが、なぜ千年以上も昔から絶える事なく
この国に定着したのでしょうか。
勿論、万葉集や平安貴族の歌に詠まれ、梅の花の美しさと香りが
寄与したことは間違いないのですが、この梅にはもっと実用に
供する価値があったのです。
我が家では毎年梅干を漬けるのですが、その梅干は花と香り以上に
人生にまで浸透するほどに貴重なものなんですね。
そう、梅には花と実の両方に効用があるのです、
それでは梅干だけが貴重品だったのかと言うと、実は昔の人々には
もっと貴重品としての効用が知られていたのです。
「烏梅(うばい)」
梅の実を煙でいぶし燻製にしたもので、真っ黒な姿から黒梅とも
呼ばれたといいます。
この烏梅、鎮痛・解毒作用が認められて漢方薬として用いられた
といいますが、薬用としてだけではなく、全く別の用途に使われた
貴重品でもあったのです。
この烏梅にはクエン酸が多く含まれており、紅花から紅色を抽出する
際の媒染剤として大いに使われたのです。
オレンジ色の紅花から、アルカリ性の灰汁で紅色を分離し、
その後、烏梅(クエン酸)で繊維へ紅色を染着することで、
着物だけでなく日本の女性を彩った口紅、頬紅をつくるにも
無くてはならないもの、それが烏梅であったのですね。
化学薬品による染色が当たり前になった現代では、この烏梅は
絶滅の品となってしまいました、しかし、その紅花で染め付けられた
着物を目の前にすると、日本人が求めて止まなかった色へのこだわり
が浮かんでくるのですね。
今でも数ある梅園では、梅の実を取ることを目的にしている場所が
沢山残されています。
烏梅は無理としても、梅の実の効用は梅干、梅酒、梅酢などの原料として
作り続けることでしょう。
その実を採るまでの一時期を観梅として楽しむことが出来るのは
桜以上に二度も三度も楽しめる花木なのかもしれませんね。
実用的といったらこれ以上効用のある木は他にないかもしれませんですよ、
梅が今でも人々の心に愛され続ける理由はなかなか複雑なんですね。
都会の真中で春を告げる梅の花が見頃を迎えています、
誰が薦めたわけでもなく多くの人々が天神様の境内へ集い合っています。
そう、春が来たことを感じるために・・・
誰も実用的なことなど気にも留めません、
それでいいのです、
花はそこで咲くことだけで人の心を穏やかにしてくれます、
その香りがいつかの記憶へと誘っていくことを感じながら
そっと見上げる先に梅の花が咲いています。
(湯島天神にて)
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