谷中寺町坂の町、本日ものんびり路地裏散歩、

その坂の途中にほとんど気づかれない路地が

ありましてね。

谷中を愛する人たちにとっては、特別な路地なのでしてね、

下駄履きで散歩していると、下駄の音が響き誰かいるのでは

ないかと振り返るほど不思議な雰囲気のある路地なのです。

井戸のある路地を二度曲がると見慣れた道に出る筈、

なのにその路地から出ることが出来ないのです。

十間ほど先を杖をついた老人が歩いている、

アタシの方が歩調が早いはずなのに、いくら歩いても

その老人に追いつけないのです。

すると、土塀の先でふいに姿が消えましてね。

いくら夕暮れとはいえ、未だ明るさの残る町中である、

慌ててその老人の消えたあたりに佇むと、

何処からとも無く花の香りが漂い始めていた。

人影が過(よ)ぎっていった、

思わず声をかけると

「まだ、貴方の来るところではありません、

      そのままお帰りなさい」

冷たい声で そう答えるのです。

「もしかして、此処は本物のあの世・・・・」

アタシは目をつぶると手探りで土塀に沿って

這い出すようにその場を逃げ出しましてね。

どのくらいの時間が経っていたのか

今思い出しても判らないのです、

谷中は寺の町、もしかしたら路地の先は

あの世に繋がっているのかもしれませんよ。

夕暮れを知らせる空を見上げていると

何処からとも無く聞こえてきたのは

「カラン コロン!・カラン コロン!」

「ワーッ!」

何時もの店に飛び込むと

「どうしたの真っ青な顔して」

と女将さんがニヤリと笑う、

全く何を信じればいいのさ・・・

此処は谷中寺町夕暮れ刻

くれぐれも迷い込まぬようにご注意くださいね。

この話は、他人様にはお話にはなりませんように。

責任を持てませんのでね。

フッ フッ フッ・・・