昨日から吹き続ける大風は全く衰えることを知りません。

もしかしたら永い眠りからお目覚めになる伏せ姫様に

春が来たことを知らせているのでしょうか。

地元の運動部の学生さん達が基礎体力増強のために

駆け上がる弘法寺の急階段を、少し足腰に不安を覚え出した

櫻狂いのオジサンはゆったり のんびり 途中で息を整え 

やっと 山門に到着するのであります。

さすがにこの大風にまだどなたもおりませんね、

若い修行僧たちが朝の勤行に励んでいる。

「おはようございます!」

朝の挨拶は気持ちのいいものですね、

さてと、伏せ姫様は・・・・

やはり、お目覚めしておりますよ、

まだその衣を通して向こう側が透けて見えるくらい

透き通った衣のまま朝の光の中で舞い踊っている

ようでした。

これからの一日、一日はもう伏せ姫様から目が離せません、

日を増すごとに、纏う衣装は華やかさを増し、

あの爛漫とした舞い姿を今年も見せていただけそうですね。

アタシがまだ可愛い小学生だった半世紀以上も前のこと、

生まれて始めての遠足はこの真間山、戦後の何もない時代でしたが

母が作ってくれたおむすびをこの櫻の下で皆で食べたことだけは

今もはっきり覚えておりますよ。

でも、あの頃は4月の入学式の頃が櫻満開だったのです、

そうすると、半世紀で二週間ほど櫻の開花は早くなっている

ということなのですね。

ここ三年間はほとんど変わらず同じ日に伏せ姫櫻は

咲き始めているので、

なんとなくほっとしておりましたが、

昔から知っている櫻を見続けていると

明らかに気候は暖かくなっていることにきづかされるのですね、

今年の櫻もまた、最近の傾向通り、南北の差があまりなく、

日本中一斉に咲いてしまうかもしれません、

北に向かって櫻を追いかける旅は難しくなるかも・・・

せめて、見慣れた櫻にだけは逢いに行けたら と

切ない願いをそっと 伏せ姫様にお願いしておりました。

   春の色の いたりいたらぬ 里はあらじ
      咲ける咲かざる 花の見ゆらむ
          読人知らず 古今和歌集

   春風は 花のあたりを よぎて吹け
      心づからや うつろふと見む
          藤原好風 古今和歌集  

市川 真間山弘法寺 伏せ姫櫻の花の下にて