毎年続けている祭り旅もそろそろ終わりに近づいた先週、

秩父夜祭が見納めかと地元の方々と祭り談義に華を咲かせて

おりましたところ、

「秩父の祭りはこれで終わりじゃありませんよ、来週、小鹿野で

鉄砲まつりがありましてね、それが終わると秩父も冬ごもりですよ」

お聞きすれば、規模こそ小さいけれどなかなか古式に則った祭礼とのこと、

小鹿野というだけで何処の神社かも確かめずに東京を飛び出したのは

そろそろ夕暮れが迫りかけた頃でした。

小鹿野の町中の酒屋さんで、お訪ねすると、

「もうこの時間では 鉄砲祭りは終わってますよ」

「いや、夜になって行われるという 神幸祭をお訪ねしたいのです」

「そうでしたか、小さな祭りですけれど、みんなが大切にしている祭り

ですので、ゆっくり楽しんでいってください」

と、其の場所が 上飯田の八幡神社だとわざわざ地図まで書いて教えて

いただいたのです。

どうやら、鉄砲祭りが終わったらしく、反対車線は帰路に向かう車で

数珠つなぎ、これから行く道路はガラガラですよ。

皆さんがお帰りになったおかげで、一番近くの駐車場へ停めることが

できました。

あの特徴のある両神山のきざきざ頭が闇の中に消えていくと、

いよいよ御神幸祭の始まりです。

笠鉾と屋台はそれぞれ一台づつ、その屋台からはあの屋台囃子の力強い

太鼓の音が静寂の山間に響きだすと、高張り提灯が夜空に浮かびます、

顔を出したばかりの細い三日月が笑っているように感じますよ。

天狗姿の猿田彦を先頭に宮神輿が続きます、

その後ろからは御神馬二頭、あの鉄砲祭りで火縄銃の爆音の中を

本殿目掛けて疾走したあの御神馬だと教えられました。

夜が更けるとともに寒さが押し寄せてくるようです。

なにしろ見物人は地元の人を抜かすとほんのひとにぎり、

「いや、冷えますな!」

とお互い励ましながら、神幸祭の行列の後ろからのんびりついていくのです。

やがて道は山道に入ると、小太鼓と笛だけの神楽囃子が低く流れてきます、

「この山の中を何処へ向かうのですかね」

初めて参加したアタシ等はどきどきしながら真っ暗な山道をへっぴり腰で続きます。

やがて川の瀬音がすぐ足元に聞こえる少し広くなった場所で神輿が下ろされると

そこが川瀬神事を行う場所だったのです。

川瀬神事といえば、秩父神社の夏の川瀬祭りが眼に浮かびます、

特に秩父盆地を流れる荒川は昔から荒れる川として恐れられていたのでしょう、

神輿を川へ入れて禊払いをする神事が行われるのですが、ほとんどが夏の祭り

なんです、

しかし、小鹿野の八幡神社では、極寒の真冬にその川瀬神事を行うというのです、

果たして気温0度の中で川に入るのかと固唾を呑んで見つめていると、どうやら

川の淵で、禊祓いを行い、神の力を増すように祈る神事のようです。

厳粛な空気が張り詰める闇夜の中を宮司様の祝詞の声がまるで神の声のように

響き伝わってくるのです。

その神事を待つ間、重ねた薪が真紅の炎を上げている、

まさに、火と水による禊祓いのようです。

全ての祈りが捧げられると、神官によってこの場に集いあった人々に

おこわが振舞われるのです。

これこそが直会(なおらい)なんですね、神と共に同じものを食し

神の力を一緒にいただくという想いがこの神事の中に際立って表されて

いるわけで、古人たちが、生きるために何が必要だったか、

それは 食物と悪霊や病気に打ち勝つ力だったのですね。

祭りの神事とは、人間の切なる願いを形にして綿々と残し続けることでも

あったのです。

再び祭列を整えて、来た山道を神社目指して戻って

いくのです。

深々と寒さが迫る山道をあの古風な笛と小太鼓の神楽囃子が静かに流れる中、

全てが影絵のような御神幸祭の祭列が鳥居の前でもう一度威儀を正すと

静々と本殿に向かって進みだす、

送り出すときの屋台囃子はもうない、

山車から降りた氏子さん達が両脇に列を作って神のお帰りを礼を尽くして

送るのです。

なんと静かな祭礼でしょうか。

神輿が本殿への階段を登り、無事宮入したことを見届けると、

いよいよ最後の神事です。

そう、あの御神馬二頭による階段登りです、

本殿前の行事さんから合図の提灯が振られると、

参加者全員が見守る中、最初の御神馬が階段を駆け上った。

一斉に歓声が上がる、

そしてもう一頭の御神馬も一気に階段を駆け上がった。

拍手と安堵の歓声が無事祭りを終えたことを示しておりました。

今年の五穀豊穣に感謝を捧げ、来年への希望をいただいた氏子さん達は

静かに家路に着くのでした。

なんと清々しくも厳かな祭礼でしょうか。

本殿で御礼の参拝を捧げることが当然に思えた祭り旅の途中でございます。

さて今年はどうしましょうか、外はかなりの雨です、とりあえず一昨年伺った時を

思い出しながら綴ってみました。

(秩父上飯田八幡神社にて)