降り続いていた雨があがった、

「どうしているだろうか」

と気になっていたN夫人、いや今はN未亡人へ連絡をしてみた、

意外と明るい声の響きに

「雨もあがったことだし、表に出てこないか」

と誘ってみた。

友人のNが長い闘病の末旅立って半年になる、

あわただしかった日々も、半年という月日は

想いも深くなる頃だろうに、

いつかはやってくるつれあいとの別れ、

いがみ合っていようと、特別仲がよかろうと

想いはいろいろ募るのだろうに。

久し振りに出会ったN夫人、

「なんだか世の中が眩しいわ」

笑みがこぼれたのは木漏れ日のおかげだろうか、

「少しはこころの整理ができたみたいだね」

「じっとしていると考えることばかり、こうしてたまには

外の空気を吸わないと、なんだか闇の中に引き込まれそうな

気がしてたの」

同じ時代を生きてきた友人同士でも、心のひだの揺れ具合までは

どうしてあげることも出来ないのです。

「何かやってみようなんて思い始めたかい」

「それが・・・、私何の得意技もないし、

特別やりたいこともないの、

でもあの3.11の大地震を体験して、考えたは、

私に出来ることは何なのかって」

「うん、あの地震から後、みんなそんな心境になったみたいだよ」

彼女は自分の臓器を医療機関に提供することを決めてきたと言った、

「私の取り得といったら健康で、体の何処にも支障がないこと、

残りの人生考えると、それしか出来ることがないじゃない」

「家族は反対しなかったの」

「私が始めて自分の意思で決めたことだから・・・」

と笑った。

「そうか、Nも入院生活が長かったからな、健康って不思議なものだね、

あんなに人一倍身体を気遣っていたNが先に行くなんて考えもしなかったよ、

俺たちみたいに、暴飲暴食のナレノハテみたいなヤツがのうのうと生きているしね」

「人生はさ、誰も恨みっこなし、

生きているだけでよしとしなければね」

「うーん、そこまで到達してたんだ、もう余計な心配しないよ

気楽に誘い出すからさ、きっとNも昔の付き合い方を歓迎してくれて

いるだろうからさ」

「明日からまた雨らしいわね」

「そう、今日は貴重な一日だったかもしれないね」

「心配してくれて有難う、私ならもう大丈夫だから・・・」

彼女の見上げた視線の向こうに、一条の光が輝いておりました。