いよいよ押し詰まってまいりましたな、

毎月晦日はやってくるのに、師走の晦日はどうしてこうも

切なくなるのでしょうかね、

九月の30日も11月の30日もそして師走の30日も一日には変わりない

はずなのに、やつぱり区切りの晦日を迎えると、じっとしているのも

もどかしいのでございますよ。

何にもしないでコタツに潜り込んでボーツとしてたって一日は

必ず過ぎていきますよ、こっちがボーッとしていると刻も合わせて

くれてボーツと待っててくれるなんてことは・・・

ないですな。

朝出がけに鬼姫様から

「今年は栗きんとんはどうなさいますの」

辛党の鬼姫様にとっては栗きんとんは全く埒外でしょうが、

アタシにとってはアレが無ければ夜も日も明けず正月なんぞは

やってきませんよ。

ちょいと前までは栗きんとんは自分で作っていたんですよ、

きんとん作りは根気と体力の限界まで要求されるのでして、

歳をとるに従って根気も体力もカタカタと落ちて

とうとう自前きんとんを諦めまして、下町で手作りきんとんを

商うお店を散歩の途中で見つけたのですよ、

「大丈夫です、ちゃんと手に入れてまいりますから」

と仕事場へ、

えっ、まだ仕事してるのかですって、

もう半世紀の間、12月31日が仕事納めで正月元旦が仕事初め

を続けておりますので特別な感慨はございませんが、

正月だけは人並みにきちんとやっておりますので

気分が滅入るなんてことはございませんですよ。

さて、少し早めに仕事を片付けると散歩の途中で見つけたあの店へ、

「栗きんとん1キロ入れてくれるかい」

この店は家族総出で商う昔気質のやり方でね、

おっかさんの笑顔に盛り付けていただいた栗きんとんを手に

すると、

「あれ、少し足りないかな・・・」

「もう1キロ貰うわ」

ずしりと手に余る栗きんとんのなんという存在感、

もう顔も心もニコニコしながらいつもの路地を曲がると、

奇妙な看板、

「少し彷徨ってみるかな」

正月用の栗きんとんを手に入れた安堵感が身も心も軽くしてくれた

みたいですよ。

手に2キロの栗きんとんを下げて路地の横道歩けば

なにやら元気が湧いてきますよ、

その店の前で立ち止まる、

「泣いて過ごすも一生

笑って過ごすも一生」

「初めてお見えになった男性のお客様で

よっぱらって見える方はお断りしています

             店主」

するってぇと、酔っ払ってないアタシみたいなのは断られないという

ことらしい。

うん、酔っ払ってても女性ならいいのか・・・

初めてじゃなくて、馴染みになれば酔っ払っていてもいいのかな・・・

それにしてもこの看板端から端まで読んでるとそれだけで酔っ払いそうじゃ

ないですか、

栗きんとんが結んでくれたご縁かもしれませんな、

またひとつ面白そうな店を見つけた路地の横道散歩でございます。