『日本さくら名所100選』というのを財団法人日本さくらの会が

選定しているという、

ランク付けが大嫌いなアタシは今まで気にしたことも

なかったけれど、

観光を生業にする人々には、この時期にやってくる人の

多少にかかわる重大な要素になるのだと、

旅の途中で出会った人は真剣な顔でそのさくら名所100選を

話してくれた。

桜旅といっても、酒も飲まない下戸のオヤジの旅の宿での過ごし方は

いたって暇なもので、食事など20分もあれば終ってしまうのですよ、

「やれやれ今宵も永い夜になりそうだ」

なんてボーッとしていたら、昼間出会った人が話してくれた

さくら名所100選 を思い出しましてね、

名所というのは、風景のよさや史跡、特有の風物などが万人に

受け入れられるというために、つい有名なところが選ばれる

傾向がつよくなるのは仕方がないことですが、

どんなところが選ばれているのか便利なツールで検索してみると、

なるほど、私の永い桜旅の途中でも、その六割くらいは

訪ね歩いておりましたよ、

何も数多く訪ねることなんて何の得にもならないことは、

私の経験からよく理解しておりますが、それにしても、

人の多く集まる場所がその基準になっているのは明らか

ですね。

各県一箇所から多くて四箇所くらいの割合で万遍なく

選ばれた名所ですが、日頃より訪ね歩いている関東では、

新宿御苑、上野恩賜公園、隅田公園、

井の頭恩賜公園、大宮公園、熊谷桜堤、

長瀞、小田原城址公園、太平山県立自然公園等

要するに大勢の人々が楽しめるという要素を第一に

挙げているようですね。

私が人里はなれた山奥まで訪ねていくような孤高の桜は

全く選ばれていないことにほっと安堵の胸を撫で下ろし

ましたよ。

暇に明かした検索の中で、山梨で唯一選ばれているのが

『大法師公園』、

初めて聞く地名なんです、

宿の方に訪ねると、それはそれは景色の素晴らしい山で、

ここまでいらしているなら是非寄ってみてくださいと

勧められてしまいましてね。

どうせ当てのない桜旅、これも旅の一期一会かもしれない、

翌日目を覚ませば、空は抜けるような青空、

富士川の流れに沿って南下するのは身延街道、その道を行けば

すぐに判るからと教えられた意味はすぐに理解できましたよ、

見上げる山が全て桜に覆いつくされているではないですかね、

どうやら大法師山全てが桜の森と化しているのです、

どっと繰り出した人々を、恒例になっているという桜まつりが

出迎えてくれるのです。

人の多さは、日頃より浅草、上野、墨田公園で体験済みの

桜狂いの目からはいたってのんびりとした空気が漂っている

ように感じてしまうのは、

この場合、いいことだったかもしれませんですよ。

イスに座って読書する人、二人で昼寝を決め込む若いカップル、

そして何よりの素晴らしさは桜越に眺める八ヶ岳でした、

あんまり熱心に眺めていると、後ろから声が掛かった、

「どちらからいらしたんですか」

「はあ、東京の浅草から」

「それならば是非あちらを見て行ってください」

振り向いた瞬間思わず

「あっ!」

と声をあげてしまいましたよ、

そう、桜の森の上に 富士の姿がくっきり、

もうこれだけで名所の資格十分ですよね。

目尻を下げて飽きるほど眺めていた

甲斐の国のさくら名所です。