亡くなった人は何処へいくのだろう・・・

子供の頃から何時も不思議て疑問に思っていたことを尋ねると、

93歳まで人生を全うした婆ちゃんは、孫の余り子供らしくない質問に

「それはな、お前には見えないけれど、すぐ隣にもうひとつ

 別の世界があってな、この世から消えてしまった人たちが

 みんなで集まっているんじゃよ」

「婆ちゃんも其処へ行くのか」

「ああ、いつかは行くさ、其処にはな、この世のことが

よく見える 窓があるから何時だってみんなに会いに来られる、

だから寂しくないんじゃ」

「ふーん、向こうからは見えてこっちから見えないなんてなんか変だよ」

「うん、変なところだから急いで行かなくてもいいんじゃ」

60年以上も前の婆ちゃんの言葉を思い出したのは、

やっぱりお墓参りをしたからだろうか、

「婆ちゃんも、親父も、お袋も、みんなこっちを見てるのかな」

目を瞑って手を合わせるとみんなの顔が浮かんだ。

墓参りを済ませるとどんよりとした空から、

ポツリと雨、

傘を差し掛けると、まるで涙のような雨粒は、

都会の舗道を濡らすことなく

すぐに止んでしまった。

鬼姫様は買い物があるからとデパートへ

手持ち無沙汰のまま歩行者天国という名の道路をぶらつく、

暮れなずむ街のショーウインドウに映っている景色にハッとして

立ち止まる。

ガラスに映っているのは確かにこの世のはずなのに、

同じ姿のあの世がそのガラスの向こうにあるような気がしたのです。

あの時、婆ちゃんが言ってたあの世ってこんなすぐ傍にあったんだ。

それじゃ、みんな向こう側からこっちを見てるんだ、

アタシは手を振ってみた、

同じように向こう側でも手を振っていた。

なんだ、こんなに近くだったんだ、

歩き出すと、和光のショーウインドウにも、真珠屋にも、

木村のパン屋にもあの世がづーっと続いていたんです。

あの世はこの世の裏返し、右が左に変わるだけで、あとは何にも

変わっちゃいなかったんですよ。

買い物から戻った鬼姫様にその大発見を報告すると

じーっとアタシの顔を見つめると

「お腹が空きすぎたのね、はいはい、

美味しいものでもたべましょうね」

アタシはショーウインドウを指差したまま、

黙って頷いておりました。

あの世はそんなに遠くないことが判ったからね・・・

(2018年夏)