暗い眼をしたその女(ひと)は
瞬きもせず海を見つめていた
「ここがふるさとなんです」
それ以上は聞かないでと背中が語っていた
振り向いたその女は
涙を落とさぬように空を見つめた
「だれもいないふるさとなんです」
コートの襟で隠したイヤリングが風に揺れた
会わずに別かれた父と母の顔が
風の中に揺れている
「二度と会えない思いをどうすればいいのですか」
「そっと手を合わせるだけだよ、
みんなそうして生きていくのさ」
「駄目だと判っているの」
そう云うと、その女は電話ボックスのダイヤルを廻した
受話器を耳に当てながら
ボロボロと泣いていた
耳元を風が吹き抜けていった・・・
2016年10月14日 — 10:54 AM
散人さま
朝からなんと心に浸みる一篇のポエムに巡り会えて
このところ忙しさでギスギスしていた自分を振り返ることが出来ました
感謝
2016年10月14日 — 2:33 PM
まい様
秋の海風に吹かれていると、ノー天気なオジサンさんでも
詩人の気分にさせてくれるようです。
旅はたまにはヒトをシリアスにしてくれるのかも・・・
笑顔も、涙も、ため息も旅が弾き出してくれるのかもしれませんね。