「わたくし、生まれも育ちも東京葛飾柴又です。

姓は車、名は寅次郎、人呼んで フーテンの寅と

発します。」

あの寅さんのお陰で葛飾の地名も全国区になりましたな、

しかし、葛飾は柴又だけじゃございませんよ、

寅さんよりもっともっと昔から、葛飾は花の里で名を売って

いたんですよ。

梅雨のころになると江戸の花の名所といえば葛飾は堀切菖蒲園

がまず浮かびますな。

あの広重や豊国までが浮世絵に残しているのですから、相当人気が

あったのでしょうね。

今でも200種 6000株の花菖蒲が咲き誇っておりますよ。

ところが現代人は、情報に慣らされておりますでしょ、

ちょっとやそっとの規模じゃ驚きもしないし、

「なーんだコレだけ」

なんてほざくのですよ。

そんな声に反発したかどうかはわかりませんが、

「それじゃこれならどうだ」

とばかりに作り上げたのが 葛飾は水元公園の菖蒲田、

こりゃ凄いですよ、

種類は100種と少なめですがその数20,000株、

堀切菖蒲園と水元公園の菖蒲田の二箇所で

「葛飾菖蒲まつり」と称して花のまつりにしちまったのですよ。

水元公園といえば、端から端まで歩くと一時間はかかるという

広大な水郷公園ですから、少しくらい人が集まったからといって

押し合いへし合いなんてことはございません。

入梅を迎えた雨の朝、さっそく伺いましてね、

毎度のことですが、見渡すかぎり花菖蒲というのは凄い景色ですな。

祭りに明け暮れた身体をクールダウンさせるには絶好の花名所で

ございますよ。

これだけ花菖蒲が並んでいると、いちいち名前を調べる気も起きませんですな、

そんな見物人の気持ちを察しているかのように、花の名を書いた立て札は

ありません、あの立て札があると、みんな足を止めてどうしてもその名を

覚えようなんて気が起きるのは、美術館で説明文の方を読んで肝心の絵画の

方はわかった気になるというのと同じじゃないですかね。

名前などわからないと花の美しさをじっくりと味わうことが出来るものですよ、

隣の池では睡蓮が水面を埋め尽くしています、ハンノキの下では紫陽花が

彩を濃くしています。

葛飾菖蒲まつりですから茶店も店開き、

赤い毛氈に座ってお茶をいただきながらの花まつり、

神輿に明け暮れる祭りもいいですが、その正反対の静かな花のまつりも

これまた人間には無くてはならないものですな。

あっ!いけない、これから仕事でした、

あさの空気を吸い込んで、溜まった仕事を片付けにまいりますかね。

ヤレヤレ、仕事はつらいね・・・