(今宮神社境内に27台の山車が揃った)

この町の祭りを初めて訪ねたのはもう十年も前のことに

なるのですね。

あの時感じたこの祭りの凄さは、ほんの一部だけを見て

感じていたことだったのです、

もう平常のこの町は何度も訪ねています、

駅前のビジネスホテルに一夜の宿をとった日、

ベットの中で、痒みに襲われて一睡もでき無かったのはもう十五年も

前の昔語りになってしまいました。

(いよいよ山車の繰り出しです)

平成の大修理を終えた今宮神社の境内には、二十七台の彫刻屋台が

勢ぞろいしています。

夕闇が迫ってきた境内ではその屋台に提灯の灯りが点り、一斉に

祭り囃子が唸りを挙げるのです、

前回、町の四辻で屋台同士が向き合って「ぶっつけ」というお囃子の

叩き合いを見せていただいた時も、度肝を抜かれるほど驚いたのですが、

何と二十七台の屋台から一斉に祭囃子が打ち鳴らされるのですね、

(繰り出した各町内の山車が町筋に集まってくる)

もうそれは、滝壺に上から降り注いでくる滝の音も裸足で逃げ出すほどの

大迫力に腰が抜けるかと思いましたよ。

その大音響の中で、手古舞姿の少女たちが笑顔で座っているのですよ、

もう肝が据わっているとしか思えませんですね。

小半時ほど続いていた叩き合いがピタリと止むと、いよいよ 繰り出しが

始まりました。

どうやらこの順番はすべて決められているようです、

今年の一番町(大年番)は下材木町、町内役員さんが居並ぶ本殿前の階段下へ

屋台が曳かれてきます、手打ち式が納められると、いよいよ鳥居を潜って

町へと曳きだされていくのです、

(向きを変えるために山車の下にジャッキが入る)

一斉に上がった拍手と歓声が、きっと町中で今か今かと待ち構えている

人々にも届いたでしょうね。

夜空に浮かび上がった彫刻屋台の美しさはどうでしよう、

まさに動く陽明門とは言いえて妙です。

高張提灯が掲げられ、手古舞を先頭にその華麗な屋台が次々に神社正面に

曳きだされて、神の前で手締めが繰り返されていくのです、

そのすべてが繰り出していくには相当な時間がかかるでしょう。

そう、祭りとは、すべてのことに手間をかけ、時間をかけることなんですね、

動き出した屋台からはあの歯切れのいい祭り囃子が聞こえてきます。

鳥居を潜る度に観衆から拍手と歓声が上がるのです、

それは立ち会った人々も祭りの一員であることのあかしなのですね。

半分ほど繰り出した屋台を見送ったところで、町の中へと戻ってみます、

町の四辻であの「ぶっつけ」が始まるのですから、

「ギシッ ギシッ!」

お囃子の音で消されてしまっていた屋台の動く音が昔へ昔へと

こころを誘っていくようです。

石橋町の十字路に八台の屋台が向かい合った、

高張り提灯が上がった、

とうとうあの「ぶっつけ」が始まりました、

境内で打ち続けていたお囃子連のスタミナはどれほどなのでしょうか、

それはまるで疲れを知らない超人のようです、そして太鼓の打ち手は

後ろから合図(大抵は背中を叩く)にすっとしゃがみこむ、そこへ次の打ち手が

すばやく太鼓の前に進み間をあける事なく太鼓を打ち鳴らす、こうして太鼓の

拍子は全く変わることなく続いていくのです。

それは神が乗り移った歓喜の叫びなのかもしれませんね。

夜空に響き渡る太鼓の、鉦の、笛の音の激しさを身体中で受け止めながら、

取り囲んだ群衆の顔に笑顔が迸っていく。

八台の屋台から一斉に屋台囃子が唸りをあげた、

そのお囃子を盛り上げるように屋根の上でも山車の廻りでも各町の

若衆連が歓声をあげる、

お囃子の叩き合いは、囃子方の意地と誇りのぶつけあいなんですね、

今年もこの「ぶっつけ」の中で祭りを感じています。

凄まじきかな 鹿沼のぶっつけ秋祭り!!

鹿沼ぶっつけ秋祭りにて