福島まで行ってみるつもりで高速道路を北へ向かって
走りだしていました。
もうこの国では旅の手段として高速道路が生活の中に
根付いてしまいました。
そういえば、昔、ユーミンが
「右は競馬場、左はビール工場」なんて歌っていましたでしょ、
まるで滑走路のようだと言ったために、高速道路も立派な恋の舞台に
なったのかもしれないな、なんてぼんやり思い出していると、
新緑の山の中に彩り鮮やかな花の群生が目に飛び込んできたんです、
「あっ、桜だ!」
ところが此処は高速道路の上、止まることも曲がることもできないのです、
「次のインターで降りよう」
ところがその次のインターまでは13kmも先なんです、
さて、さっき見つけた桜の山までどうやって行きつけるだろうか、
まあ、当て所のない旅はいつものこと、迷いながら新たな発見はすでに何度も
体験済みですよ、
だいたいこの方向だろうと相変わらずのいい加減振りは、
やっぱり道に迷ってしまいました、
其処はもう代掻きの終わった田圃の続くのどかな道端に車を止めた、
「蓮華が咲いてるよ」
その田圃の向こうには 桜 です。
旅は名所や旧跡ばかりがいいのではないことは経験済み、
ましてゴールデンウイークの名所などは人の波、
そう、この国はどこを彷徨っても心を鎮めてくれる土地が沢山あるのですよ、
まして、春の花が咲き始めた今の季節はね、
道を尋ねたくても人の姿はない、
ならば、迷い続けてみるのもまた旅の楽しさだと歩きはじめると、
畦道からは蛙たちの合唱が始まっている、
「オレたちは生きているぜ」
なんだかそんなふうに聞こえてくるのですよ、
耳を澄ますと、田に引いた小川の流れがさわさわと小さな音を立てている。
桜に囲まれた家があった、
なんと豊なんだろう、
一年に一度、桜が全ての世の中のしがらみを断ち切るように
咲き競うのでしょうか、
もうそれだけで、あとの残された時間を充実して生きられる
ような気がしています。
あまり眺め続けていたことにその家の方が出てきてくださった、
「すいません、あまり見事な桜でしたので見とれてしまいました」
「そう言っていただくと何だか嬉しいですね」
「実は高速道路から見事な桜が見えたので次のインターで
降りてきたのですがに迷ってしまったのです、
でもそのお陰でこんなに素晴らしい桜に出会うことが
できました」
「あなたの見たという桜はこの山の向こう側ですよ、
あそこも今がサトザクラの一番美しい時期ですから
是非ご覧になっていってください」
そして、丁寧にその道順を教えてくださった。
礼を言って車を止めた場所まで戻りながら、何度も振り返った桜です。
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