今年の東京の桜の開花はいつもより早かったですね。

東京の桜は開花から満開までが約一週間、

その後は、雨や大風が吹かないか心配しながら

密かに散り始める日をじっと待っているというのが

桜待つ気分なんですよ。

ところがこの冬に戻ったような日々が桜を

冬眠させちまったようで、

「この分では入学式あたりが

  見頃になりそうじゃないですかね」

なんて桜好きの人たちはささやき合っおりますよ。

それはそれで滅多にないことだから、

「今年はまさかの桜かな」

なんて呟いておりましたがね。

下町の桜といえばもう上野に止めを刺すほどに大衆受けする

のですが、昔は将軍様の墓所のあることで、花の下での

飲めや歌えの花見の宴は禁止だったんですよ。

まして夜桜などはもってのほか、黒門が閉まって誰も

入れなかったとか。

徳川様が野に下ってからは、上野は唯の公園に成り下がり、

庶民に解放されたわけで、そうなると箍の外れた無秩序状態に

桜もさぞかしびっくりしたでしょうね。

その上野の花見も百年も続いてくると、それなりに秩序を

取り戻してくるわけで、かつては歌舞音曲花盛りだった花宴も

やや落ち着きを取り戻しておりましたが、あの大震災が起こると、

いつの間にか自粛という急ブレーキがかかりましてね、

花見は非国民のやることだ、みたいな雰囲気になっちまったところが

この国の庶民の恐ろしいところですよ。

まあ、それものど元過ぎれば、いつまでも続かないところもまた

この国の庶民なんですがね。

さて、今年の花宴、勢い込んで

「今年はパッとやるぞ!」

なんて意気込んでいたのに、一行に花は開かず、

おまけに冷たい風が吹きぬけるときては

人間様の方が散ってしまいそうですよ。

待ちに待った朝からの晴天、仕事を終わらせてやってきました

上野の花宴、今までの待たされ続けた鬱憤を晴らすとばかり

呑兵衛集団は大盛り上がり、

コチトラは酒は一滴も飲めない下戸の悲しさ、

花宴を遠くから観ながらの純粋お花見に徹するのでありますよ。

皆さんは酒が進めば寒さも忘れる大盛り上がり

しかし気温は冬模様ですよ、足元から冷気が這い上がるわけで

一箇所にじっとしてなんかいられませんですよ。

10分もじっとしていると、身体が硬直するほどの寒さでも、

夜を迎えると宴の歓声は高まるばかり、

あっちでもこっちでも乾杯!の嵐、

まあ、酒さえ呑めれば桜は二の次というのがあたし等の国の

お花見ですがね。

下戸のアタシなんぞは身体の芯まで冷えちまって、カタカタと

歯が鳴り出す始末のお花見でございます。

花見に寒さは禁物ですよね。

それでもこの寒さが五日も続いてくれたお陰で

桜はまだまだ見頃を終えていなかったのですよ。

「今年の桜は我慢強いじゃないか」

なんてエールを送っていたら、いきなり雷鳴が轟くと大風に大雨、

アタシは用意してきた傘を開いて難逃れ、ところが花宴の真っ最中の面々は

大雨くらいで酒が止められるかとばかり飲み続けるのでありますな。

「大丈夫かい」

と訊ねると、

「一回濡れちまえば後は同じだよ」

さすがに下町の呑兵衛は肝が据わっておりますな。

どうせ、乾杯!の音頭が響けば、後は桜なんかどうでもよくなるのが

上野のお花見、久しぶりに元気になった庶民の顔が桜色をを通り過ぎて

茹蛸みたいになっちまいましたっけ。

何はともあれ、けじめだけはつけられた今年の花宴にもう一度

「カンパイ!!」

あれ、桜咲いてるぞ・・・

(三年前は、まさか外出が出来ないなどという
 事態が起きるなどとは思いもしませんでしたね)