寒いですな、

そりゃ一年で一番寒い寒中ですからね、

こういう日は

年寄りはじっと炬燵にでも潜り込んで

みかんでも剥いているのが

年寄りらしくていいのかもしれませんが、

なにしろアタシは

毎日一回は表の空気を吸いながら歩くと決めて

もう十年も続けておりますでしょ、

寒いからとか、風が冷たいとか、雨だ雪だと

気にしてると一歩も歩けなくなっちまうのですよ。

「それっ!」

と気合を入れて一歩踏み出せば、肌が寒さを感じて、

「これくらいなら歩けるぞ」

と感じ取るわけで、

それが長く続けている習慣がもたらすありがたい

ところでございますよ。

さてと本日の寒中散歩は何処へ行こうか・・・

まあ、散歩なんてものは目的がないから散歩なわけで、

浅草からトボトボと歩き始めて気がつけば谷中寺町坂道散歩に

なっているというわけでございますな。

この寒の時期といえば、どちらのお寺さんをお訪ねしても

綺麗な花なぞ咲いちゃおりませんでしょ、

寒が過ぎれば春がやってくるわけで、

梅が咲き、桜が咲き、藤や躑躅が一斉に咲くのを想像する

という楽しみは、実は寒の最中しか味わえないのでございますよ。

経王寺さんの山門をくぐり本堂で手を合わせ、

あの甲比丹藤はどうだろうか

と見つめれば、おっ、きちんと雪吊りが・・・

近づいてみれば、この寒さの中花芽が少しずつ膨らんでおりますな、

これなら今年もあのエモイワレヌ香りを発散させてくれそうです。

経王寺さんを後に角を曲がって諏方道を歩くとまもなく

アタシの大好きな桜の寺養福寺さん、

ちょいと寄ってみましょうか、

春四月、ソメイヨシノやシダレサクラが咲き乱れ、

さらに鬱金桜(ウコンザクラ)が咲くだろう境内に

歩をすすめると、あの仁王様と眼が合っちまいましてね、

こうなれば、仁王様にも今年も桜に囲まれますように と

お願いいたしましたよ。

あの春の桜の美しさを知る者には、この閑散とした境内も

また希望を抱ける場所に思えますな。

さてと、もう一箇所寄っていきましょうか、

旧谷中村の総鎮守 諏方神社です、

こちらも谷中の桜の名所なんです、

まだ正月気分が残る本殿で諏方大神様に手を合わせると

なんだか気分がすっきりいたしますな、

どうやら今年も桜は大丈夫そうですよ、

だいぶ歩いてきました、そういえば夕暮れがずいぶん遅くなって

きましたよ、まだ薄明かりの中、富士見坂から眺めてみたけれど

生憎 富士の姿は見えず、とぼとぼと坂道下って谷中銀座商店街へ、

相変わらず元気な商店街では、彼方此方の店から掛け声が聞こえて

まいります、

変わらないと想っていた古い商店街にも新たに店を出す機運が

あるようで、若い店主がニコニコと店を商っている、

年寄りばかりが増えちまうといずれは消えてなくなっちまいますものね、

脱サラで始めたいつものオヤジさんの店でご休憩、

香りのいい珈琲で生きている実感を感じ取る寒中散歩でございます。