浅草から坂の町へ足の鍛錬を兼ねての散歩でございます

谷中というのは明暦三年に江戸を焼き尽くした大火の後、

江戸城の周辺にあった寺々がここに移転し、

今は八十を超える寺の集まる、まさに右を見ても左を見ても

寺ばかりの町なのです。

天王寺と寛永寺の広大な墓地が地続きの谷中は

もしかしたらあの世とこの世の境目なのかもしれませんな。

さてと散歩を続けましょうか

もう毎度のことなので、道筋は決まっておりましてね、

特に年寄りはいつもと違うことをしたり、

変に冒険心を起こしたりして若者の真似なんかしようものなら、

けっつまずいて擦り傷くらいで済めば儲けモノですが、

これが簡単に骨折なんていう始末になるのが老人というもの、

無理せず、冒険せず、マイペースが年寄りにはなにより大切なんで

ございますよ。

足の鍛錬といったって、

何もジョギングしたり、

階段をうさぎ跳びして登る なんてわけじゃありませんんよ、

そんなことしたら、それこそ翌日から寝たきり老人に

なっちまいますからね、

坂道登ったら息を整えてご休憩、

まさか、道端にへたり込むなんていうのは下町爺としては

粋じゃありませんよ、

すーっとお寺さんの境内へもぐりこんで、他人様に迷惑のかからぬように

毎日の無事を感謝してそっと手を合わせた後は、

今を盛りの紅葉を愛でるのでございます。

経王寺さんに参拝、春の躑躅、牡丹、甲比丹藤(カピタンフジ)は

見事なのですが

秋の静粛な中での朽ち葉もなかなか捨てがたいものなんです。

経王寺さんを後に諏訪道を諏方神社へ向かいましょうか、

毎年桜が咲くと必ずお邪魔する養福寺さんへ。

桜は春の花と秋の紅葉の二度楽しませてくれるのでして、

養福寺さんの境内も秋色に染まっており、春と違ってほとんで人に

逢わないほど静かなのです。

さて、続いてお寺さんのはしごです、

江戸時代から安置されている地蔵様に手を合わせ、いよいよ諏方神社へ、

日暮里・谷中の総鎮守様は祭りになると人でごった返すのですが、

秋の紅葉時期は人に逢うこともない静謐な空気が流れておりましてね。

公孫樹の葉を敷き詰めた参道は心が洗われくらい美しいですな。

本日はこのあたりで美味しいコーヒーとケーキの店で休憩で

ございます。