「風神さま、夕べはどうしたんですか、

 いきなり木枯らし吹かせちまって・・・」

「いやいや、雷神さんがナ、

 たまにはいっぱいやろうなんていうもんだから、

 つい飲み過ぎちまってな、知らぬ間に かっぽれ踊ってた」

「かっぽれもよござんすが、踊る時は風の袋の紐をきつく結んで

 おいてくださいましよ、下界じゃ人間共が震えあがっちまいましたよ」

「いや、これはすまなかったな、ところで今宵は何かあるのか」

「そうじゃありませんが、近頃、源さんの姿が見えないので

 ちょいと心配になりましてね」

「ああ、源さんか、夕べワシの足元へ来て喚いておったナ、

 何で木枯らしなんて吹かせるんだ とかなんとか云いおってな」

「そうでしたか、ヨッパラっておりましたか、それならいいんです

 いつものことですから、風神さまも風邪などおひきにならないで

 くださいましよ、くしゃみされると、大風が吹きますんで、それでは

 失礼いたします」

それにしても、夏からいきなり冬ってエのは身体に応えますでしょ、

何事も程々にしていただかないと、年寄りはクタバッチまいますからね、

「いよオ、お姐さん、源さん見かけなかったかい」

「夕べはだいぶヨッパラってましたよ、あっちこっちでクダ巻いて

 ひんしゅく買ってましたからね」

「お前さんにもつっかかったのかい」

「いえ、アタシは大丈夫でしたが、相棒の直次郎さんが手を焼いてましたよ」

「しょうがねーオヤジだね、よほど悔しいことがあったんだろうよ

 源さんの酒はいつも楽しいんだが・・・、勘弁してやっておくれよな」

それにしても源さんは随分荒れたらしいね、

きっと季節はずれの木枯らしをまともに受けちまったからですよ、

ああ見えても、こころはデリケートなんですから、

なんだか急に会いたくなっちまいましたよ、

酔っ払うと始末に追えないのに、会わないと忘れ物したみたいな

気にさせるんだから、源さんは不思議な人ですよ。

浅草は、狭いようで広い町、

世界中から人の集まる不思議な町、

「コレ ナンデスカ・・・」

青い眼の若者が指差す先に、御酉さまのポスター

えっ、これ説明するの・・・

「えーと、干支(えと)知ってるかな」

て云ったってわかるはずないしな、

「熊手わかるかな」

ダメだ、首横に振ってるよ

よりによって、一番説明しにくいものを指差すんだからさ、

くどくどと江戸の昔から伝わる歴史を手振り身振りで話していたら、

「もう、コケッコウ」だと、

洒落で返す異人さんてーのに、初めて会いましたぜ。

少しは国際貢献になるかと想ったのにね、

さてと、観音様に手を合わせて、いつもの浅草散歩にまいりますか、

「それにしても、寒(さぶ)いね」

アタシは鬼姫様が機織で作ってくださったマフラー首に巻いて

颯爽と歩くのでありまして、仁王様のわらじの前でふと東の空を

見上げれば、天にも届けとばかりにあのスカイツリーの姿くっきり、

あんまり、雷神、風神さまたちを刺激しないでくださいよ、

あの二人、酔っ払うと、すぐにムキになって暴れるからね。

「ふー寒い、やっぱりこんな日は銭湯へでも行きますか」

いつもの浅草散歩でござい。