冬至から243日目、二十四節気の「処暑」であります。

暦の上ではそろそろ暑さも峠を越し始め、秋の気配が

漂い始める頃なのですが、まとめてやってきた台風、

そんな暦なんぞは知ったこっちゃないとばかりに暑くて

湿った空気を撒き散らすのでありますよ、ちょいと歩いた

だけで汗が噴出し、意識が遠のいてまいりましたよ。

 ひょいと見上げた空は

  ギンギンギラギラ暑さも三倍!!

「こりゃたまりません、年寄りの干物が出来上がるじゃありませんかね」

道端で倒れようものなら、

「年寄りが何を考えてるんだ、バカだチョンダ!」と云われ放題が

目にちらつきましてね、

こりゃたまらんと、いつもの珈琲店に緊急避難、

芳しい珈琲を炒れていただき、

思わぬ祭りの話に華が咲いて気が付けば、処暑の空が窓越しに

顔を出し始めておりますよ。

「それではひとめぐりしてまいります」

と下町路地裏散歩に出かければ、どうです見事な青空、

その青空にすっくと立つタワーなんぞは、今一番の流行りモノじゃありませんか、

しばらく振りにタワーを見上げれば、いつもの角度より見上げる傾斜が

きついではありませんかね、

ぐっと気合を入れて首を後ろにそらしたその時、

「あっ!」

ぎっくり腰ってやつは何度か経験がありますが、

こいつは ぎっくり首とでも云うのですか、

見上げたまま、首が固まっちまったのでありますよ、

「アワ、アワ・・・」

わめいていたらしく、通りかかった買い物帰りのオバサンは

不審者を見るような鋭い視線を浴びせると早足で脇をすり抜けて

いかれるのでございますよ。

「おじさん、どうかしたのかよ」

ツッパリ風のお兄ちゃんが声を掛けてくれましてね、

「クビが、首が・・・」

どうやら異変にきがついてくれたそのお兄ちゃんは、

思わぬ優しい仕草で、そーっと首を後ろから押してくれたんですよ。

いやー、人間の首は重たいということをすっかり忘れておりました、

元に戻してくれたお兄ちゃんに、礼を申し上げると、

「おじさん、此処はタワーに近すぎてよく首の筋を痛める年寄りが

 いるんだよ、気をつけたほうがいいよ」

人は見かけで判断してはいけませんね、元に戻った首を今度は

前へ何度も下げながらふと視線を戻すと、そのお兄ちゃんは

片手を軽く挙げて、スタスタと行ってしまいました。

下町のお兄ちゃんは格好いいですな。

今度はゆっくりと見上げた視線の先に、

綺麗に焼けた夕焼けにタワーの涼やかな姿いとおかし。

あのタワーは下町のど真ん中に立ててくれて大正解ですよ。

それにしても、ここでは、暑さのほかに、見上げる時の首の心配を

しないと、とんだ目にあいますからね。

特に、借金で首の廻らない方とか、急のつくことを避けなければ

ならない年寄りは特にお気をつけてくださいませませ。

「処暑」とは夏バテした身体を労わる日なるかな。