「世に祭りの種は尽きまじ」

山の冷気(霊気)を身にまとって颯爽と戻ってきたら街は祭り一色に

彩られ、またまた始まった祭り行脚の難行苦行でございます。

何しろ土日に集中する祭りに、

「はてさてどちらへ伺えばいいのか」

ここが思案の為所でございますよ。

(2130人の盆踊り)

東北の祭り(青森、岩手、秋田、山形)、水戸、潮来、沼田、高崎、桐生、

真鶴、八王子、亀戸、みんな重なって同じ日なんですよ、

ちょいといい加減にしてくださいよ。

こっちは零細企業の単独ひとり旅ですから、一箇所行ったらそれで終わり

ですからね、残りの人生考えて慎重に選び出さないと後がない人生悔いばかり

なんてことにはしたくありませんでしょ。

1.何十年に一度の大祭は見逃さないこと、

 今まで72年に一度、60年に一度、12年に一度、七年に一度なんていう祭り
 は欠かさなかったのは我なりによくやったとまずは胸を張り、

2.人が多く集まる祭りより、伝統を大切にしている祭りはしっかり見つめること、

 思わず涙ぐむほど感動する祭りに出会えるのですよ。

3.これぞ祭りと感じた場所は毎年訪ねること、

4.まだ仕事が現役なので、関東地方に絞ること、

5.初めての祭りは優先すること、

と、一応、基準を設けてはいるのですがね、

それでも、その日の天気と気分と体調を考えて、最後は結局は思いつきが優先

されるというわけで、そこが単独祭り行脚の面白いところなんですがね。

さて、急に思いついたのは

「そういえば、まだ行ったことが無かったな」

と電車に飛び乗った行き先は 八王子。

まあ、初めての祭りと云っても、八王子の街は何度も訪ねておりますから

迷うことはありませんよ。

それに八王子はかつて織物で栄えた街、いまだ三業地が健在で芸達者な

芸者衆の芸技も見られるかもしれない・・・

最近では各大学が移転してきたため若者の姿が目立つ街でもあるのですよ、

祭りは若者の熱気無しにはなりたたないもの、もしかしたら

いい祭が見られるかもしれないと期待が膨らみます。

それにしても凄い人波ですな、八王子は以前 八王子風の盆 の祭りを

訪ねておりましたが、何しろ街が大きくて祭りを楽しむにはまず

第一に体力が要求されそうです。

甲州街道にやってくると道路は浴衣姿の人・人・人、

何が始まるのかお訊ねすると

市民の皆さんが最多人数で踊る盆踊りのギネス世界記録に挑戦するのだとか、

この猛暑の中で高齢者の方々も参加されていて、熱中症は大丈夫だろうか

と心配が先にたちますよ。

(多賀神社 宮神輿)

昨夏に大阪の道頓堀で2025人が踊った記録を上回って

2130人の記録を認定されて大歓声があがりましたよ。

みなさんご苦労様でした。

さてと、祭りは上地区と下地区にわかれており、

上地区は多賀神社の祭礼、下地区は八幡八雲神社の祭礼を一緒に

やることで 八王子まつり になったとか、ちょっとイベントの

色調が強くなったのですかね、

夕闇迫る時刻、ずらりと並んだ山車の姿にびっくり、

何でも上地区十台、下地区九台が勢ぞろいしたとか、

昔の地名の提灯に灯りが入ると、一気に華やぎが増してきましたよ、

山車を曳くのは子供から年寄りまで、口々に掛け声をかけながら

ゆっくりと巡行が始まりました、

山車のいいのは、神輿担ぎと違って誰もが参加できるところかもしれませんね、

山車の舞台では、大太鼓、締め大鼓、鉦、笛の葛西囃子の系統をひく江戸囃子の

ようですね。

掲げられた提灯には大戸、淺川、片倉、引田、犬目、伊奈などの囃子連の名が

記されておりどうやら各町内に保存会があるのですね、

聞きなれた軽快な江戸囃子(もしかしたら八王子囃子と呼ぶのかも知れません)が

心地よいお囃子を聞かせてくれますよ。

さて山車舞台に神楽舞いが登場、その面の豊な表情に思わず惹き込まれて

しまいました、

神楽舞いは古老によるものが多いのですが、ここ八王子では少年少女たちの

その身振り手振りの豊な表現にびっくりいたしました、

(八王子三業組合 俄屋台)

狐、おかめ、ひょっとこ、猿、外道、もどき、そこに獅子舞が絡んで

思わず笑いが沸き起こるのです。

若い父親が息子を抱えあげて差し上げると、面男が顔を摺り寄せた、

その小さな息子の顔が引きつったかと想ったら思わず声をあげて大泣き、

そりゃそうですよね、あの面の顔を目の前で見たら、そりゃ恐怖で

泣き出しますよね。

でも、それだけ純真さの表れだということなんですね。

そんな神楽舞いがあっちでもこっちでも繰り広げられているのですから

飽きるなんていうことはありませんですよ、

下地区から上地区へ、山車の後を付いていくうちに随分遠くまで

来てしまいました、

のんびりと戻りながら、この街の現在の姿を見つめ直しておりました、

多賀神社のお仮屋には立派な神輿が鎮座、お聞きすると浅草で造られた

とのこと、急に親近感が湧いてしまいました。

それにしても大きいですな、この神輿を担ぐのは1600人の担ぎ手が必要

なんだとか、大きさは浅草三社神輿もかないませんですな。

ビルが建ち並び、繁華街の通りは居酒屋、ファーストフードの店が入り乱れ、

現代のものですが、こうして山車が現れると、一気に昔町へ戻ってしまうことが

可能なのだということを実感していました。

居囃子では芸妓組合の俄屋台が見事なお囃子を聞かせてくれました、

那珂湊の八朔祭りの芸者囃子を思い出しながら手拍子を打っておりましたよ。

若い女の子も浴衣姿が似合います、最近増えてきた男の子の浴衣姿、

ちょっと着方がだらしないところはご愛嬌、日本の夏を身体で感じて

くれたとしたら祭りが何を感じさせてくれるかを考えるきっかけに

なるような気が致します。

祭りはみんなで力を合わせることでしか成り立たないことを

もう一度噛み締めていた祭り旅の途中のことです。

 「世に祭りの種は尽きまじ」

(2016年8月)