『夜目 遠目 笠の内』

これは美女足らしめる絶対条件を言い表した昔からの言葉ですが、

はたして現在にも通じるのでしょうかね。

まず最初の 夜目、当然薄暗ければ相手の顔の細かい造作などは

見えないのですから、そりゃ 想像力が刺激され、見ている者の

今迄の最上の美人が基準として浮かび上がってくるんでございますよ。

はっきり見えないということがまず美人の条件だと言ってるんですね。

要するに美人とははっきりと見えないことが条件だとすれば、

当然、遠くから見ても同じこと、被り物が深くなればこれも

はっきり見えないという意味では同じなんですね。

断っておきますが、アタシが言ってるじゃありませんからね、

昔からの こ・と・わ・ざ ですから・・・

それじゃその反対から見たら、

そりゃ毛穴が見えるくらい明るければ

黒子、しみ、ソバカスは言うに及ばず烏の足跡なんてェものまで

はっきり見えてしまえば想像したくたって出来やしませんでしょ。

西馬音内盆踊りに魅せられて通い始めた友人のMは

「絶対にフラッシュは焚くなよ」

と忠告しましたのに、笠の中の美女にそのフラッシュを

浴びせたのでありますよ。

出来上がった写真を見て

「オレの見つけた美女が写ってない」

って嘆いたって後の祭りというもの、

『夜目 遠目 笠の内』ってェのを忘れたのか

と言ってやりましたがね。

ぶつぶつ言いながらその暗くなった夜の街を歩いていますと

「おじさん、それ以上近寄ってはダメ!」

その声の先を見るとすこぶる美女がこちらをじっと見つめてる

じゃありませんか、

そっとカメラを取り出すと、その場からシャッターを押しましてね、

「なんだ、よく見えないよ」

っておっしゃるんですか、貴方もまだお解かりじゃなかったのですね、

はっきりさせない写し方が男の優しさだということを・・・

これ以上へ理屈を並べていると世の女人の方々から飛び蹴りを

食らいそうですからこの辺で口を閉ざすことにいたしますね。

夜の街には美女が多いでしょ・・・

視線を感じながら歩くのが夜の街の正しい歩き方なんでございますよ。

暇でしたら、貴方も試してみてはいかがですか、

暇つぶしと健康維持のためにはかなり有効な手段だと思うのですがね。

それから不審者に間違われて警察のご厄介になっても

アタシに責任を取れ なんておっしゃらないでくださいよ。

今は、スナップ写真は盗撮と紙一重の時代ですからね。

どうぞ紳士の振る舞いをお忘れなく・・・