前回の奉納神楽では最後の「大山祇神」だけ見ることが

出来たのですが、他の演目もこの目で見てみたいと

願っておりました。

御祭礼の宵宮に奉納されるという上総神楽に、今年はなんとか

間に合ったようです。

小雨の降る中で、前回伺った時よりは集まった人は少ないようです。

カメラを持っている人がほとんどで、といっても私をいれて六人ほど、

自然に祭り話の情報交換の場になるものですよ。

みなさん、やはり神楽舞いが目的のようで、プロ顔負けのカメラの

支度に余念がありません、アタシは相変わらず手のひらに隠れる

小さなカメラで神楽の始まりを待つのであります。

玉前神社の神楽奉納の記録には天保九年(1838年)成立の「社用録」に

神楽殿で土師(はじ)流の御神楽が奉納されたとあるとのこと、

現在は氏子十三名が、上総神楽保存会を組織し継承しています。

「加茂明神」「天狐乱舞」「八咫宝鏡」「種蒔」「両神和合」「龍神舞楽」

「悪魔降伏」「磐戸小開」「蛭子」「猿田彦舞」「剣玉」「神剣貢」「風神安鎮」

「戸隠」「千能里」「大山祇神」の十六座を伝えている。

「猿田彦舞」が必ず最初の演目で最後は、「大山祇神」で終えるとのこと。

面は総数二十三面あり、装束・楽器は氏子らの奉納によって伝えられています。

するとこのところ江戸里神楽を見ることが多いのですが、同じ土師流からの

流れだとわかりました。

今宵の出し物は

「八咫宝鏡」「磐戸小開」「悪魔降伏」そして最後が「大山祇神」

今宵は「八咫宝鏡(やたほうき)」から始まりました、

八咫の神鏡を安置する御殿を内侍所と呼ばれておりますが、

内侍の司は、尚侍・典侍・掌侍・女嬬の職があり総て女の職なのです。

大太鼓に続いて竜笛の音が響き渡ると舞台に、左手に八咫鏡、

右手に扇子の女人が現れます。

演目の表題だけは示されておりますが、登場人物、どのようなことを

表現しているかは里神楽特有のもので、わからない分、想像する楽しみが

生まれるのです。

神話では八咫鏡(やたのかがみ)を創った神を伊斯許理度売命

(いしこりどめのみこと)としています。

鏡に映る仕草を何度もするところを見ると、どうやら舞い神は

伊斯許理度売命のようですね。

もしかしたら、

次の演目が「磐戸小開」とのことなので、磐戸の前で舞うのは天鈿女命か

とも思いましたが、面の口元が微笑んだように感じてしまい、

磐戸の前で肌も露出して踊ったという天鈿女命とはどうしても思えません。

さらに右手に扇子から鈴に持ち替えて、あくまでも静かに舞うのです、

八咫鏡は、天の岩戸から顔を覗かせた天照大御神を映し、その光で

天照大御神が誘い出されるのですから、その八咫鏡を手に舞う神は

伊斯許理度売命に違いないとひとり納得するのでございます。

しばらく休憩(次の演目の衣装替え)のあと次なる「磐戸小開」が

始まりました。

登場してきた神はその姿、表情、振る舞いが奇怪で、面も初めて見る

ものでしてね。

どうやら仕草からは磐戸の扉を開ける仕草をするのです。

とすると手力男命かと思いましたが、他の神楽で見てきた手力男命とは

あまりにも姿形が違いすぎます。

それに磐戸の戸を力ずくでこじ開けた手力男命の物語なら「磐戸小開」とは

云わぬはず、

天の磐戸に隠れてしまわれた天照大神は外から聞こえる神々の笑い声に

磐戸を少しだけ開けるのですが、そのとき立ち会っていたのは

天児屋命と太玉命とヘソ出しで舞い踊っていた天鈿女命、

登場したのはどう見ても男神ですから、天児屋命と太玉命のどちらかと

いうことなのでしょうか。

神話の中の物語に

天照大神が天磐戸からお出ましになった時に、神々が嬉しさのあまり榊を取り、

舞い狂われたと言う、喜びの有様を形どったか、その時、太玉命が、真榊を持って

勇ましく舞われた とあるので太玉命かもしれません、

神話の中の物語ですから判らないままがいいのかもしれません、

それにしても、げに恐ろしげな表情の神でありますな。

三番目は「悪魔降伏」

以前、茨城の杉山神社で行われた 悪魔祓い踊り を見てきたことが

ありましたのでどんな演目なのかと見つめておりましたが、

予想とはまるで違いました。

角のある奇怪な顔が悪魔なのでしょうか、

その悪魔は手に黄金の玉を持っています、

もしかしたら海に流れ着いたという玉依姫命の御霊なのでしょうか、

そう理解するとその悪魔と一緒に舞う女神は玉依姫というのでしょうかね、

想像するばかりで全く見当もつきません、

最期に登場した黒づくめの神によって鬼の姿の悪魔が捉えられ

手にしていた黄金の玉は女神の元へ、さらに誓詞に手形を押させられ

るという筋たては理解できましたが、登場する神々は最後まで想像

できませんでした。

これだから里神楽は面白いのです。

黄金の玉を取り上げられ、誓詞に手形まで押させられた悪魔は

すごすごとその場を後にするのでした。

悪魔とは何者なのでしょうか・・・

締めは以前も見せていただいた「大山祇神」

演目のひとつひとつはとても短いのですが、中々迫力がありました。

特に大山祇神の躍動感ある踊りは新たな命を授けてくださるのでした。

そして集まった皆さんに力餅が撒かれるのでした。

子供にまじって大人たちも奪い合う姿に、餅に込められた霊力を

信じられる気がいたしましたね。

玉前神社の上総神楽は、まだほん一部だけを見せていただいた

ようです。

年に数回の奉納神楽があるとのこと、次の機会もお訪ねしたいと

願っておりました。

(玉前神社 宵宮祭にて)