お前が最期に見たあの夏がまたやってきた、

誰にも告げることなく逝ってしまったあの夏だよ、

変わらぬ仲間だと思っていた残された者たちは

あてども無く彷徨う季節を何度も過ごしたんだ、

その夫々にわだかまっていたこころを拓くのに

15年も費やしたんだ、

ひとりで旅立っていったお前に、会いに行くことも

出来ないでいたんだよ。

「あいつの墓参りにいこう」

誰とはなしにそう言い出した時、

「行こう・・・」

て決めたのさ。

あれから15年か、

一度だけお前の亡骸を納めたお寺さんへ行ってから、

みんな、来てはいけないと思っていたんだ、

駅で待ち合わせて、5人で訪ねたよ、

情けなかったけれど、お寺の名前も、道順も、記憶の彼方に

消えかかっていたよ、

「確か土手が見えてたぞ」

「学校の前だったんじゃないか」

そのお寺を探すのに、随分迷いながら、不思議にその門前に

5人がたたずんだのは、やっぱりお前が呼び込んだのだろ。

「あいつ酒が好きだったから」

とNは酒屋でワンカップを買った、

Tは花屋の前で花を買った、

Oは、バックから桐の箱に入った線香を取り出した、

Mは手桶に水をなみなみとそそぐと墓地へ向かった、

オレはその時水無月の花を見ていた。

一度だけしか来たことの無い墓地の中を、確かな足取りで

アイツの墓の前に立った、

何処にも墓誌の刻まれていない墓なのに迷うことがなかった。

線香に火がつけられるとあたりにエモイワレヌ芳香が漂った、

手桶から水が注がれ、花が生けられると、

「呑めよ!」とワンカップの全てをそそいだ。

最近、四国八十八箇所を巡っているNがおもむろに

般若心経を唱え始めた、みんなで手を合わせた。

知り合って55年目の夏だよ、

「お前はあの時のままだけれど、オレたちはみんなそれなりの爺に

なったよ、どうだ、オレ達がわかるか」

今日来られなかったヤツもいるんだ、大病して声が小さくなったY、

倅が生きるか死ぬかのMY、みんなそれぞれ精一杯生きてるぞ。

でも、もういいだろう、いずれそっちで会える歳になってきたんだからさ、

もう少し待ってろよな、そのうち順番に行くからさ、

芳醇な線香の香りが夏の空に立ち上っていく。

あれからさらに十年が過ぎた

お前のことを忘れずに

俺達はまだ生きているぞ・・・。