さてと、寒さの冬に身体を慣らすには表を歩き廻ることが

一番効果があることがわかりましてね、しかし、坂東の

空っ風にはどうしたら耐えられるか、

そりゃ、今までも凍りついた山から吹き降ろしてくる冷たい風

にも何度も煽られた経験だけは数え切れないほど

体験しておりますが、すべて過去のことで、あの経験が歳を重ね

老いた身体で絶えられるかは何の保障もありませんでね、

今、今日の身体でどれほど空っ風を受け止められるかが

問題なんでありますよ、まして冬の海辺に吹きつける風は

ベテランの漁師なら

「ならいの風だ!!」と言って絶対に海には出て行かない、

命がいくつあっても足りなくなることを知っているからね、

その ならいの風をこの老体に受け止めようというのですから

そりゃ、身体に寒さを覚えこませないと海辺に立てるわけは

ありませんよね、

都会に居て、冷たい風が吹きつける場所といったら・・・

そう、川にかかる橋の上に決まってますよ、

馴染みの隅田川だってね、車で渡っていれば何の心配もありませんでしょ、

しかし、ひとたび寒中の中歩いて渡るとなると、相当の覚悟がいるわけで、

この橋の上で震え上がるようじゃ、真冬の海を見に行くことなんか

出来ませんよ、

本日は清洲橋、全長180mの鉄骨の橋、そうあの関東大震災で

焼けてしまった後、復興の名の元に架け替えられたのですから

今年で90年目、今見ても惚れぼれする格好いいじゃないですかね、

橋の真ん中で立ち止まると、北からの風が容赦なく吹き付けてくる、

こりゃ、どう見ても修行としか思えませんですな、

コートを着ないのはアタシの散歩のやり方で、首に巻いたマフラー

だけが、身体に直に忍び込んでくる風を防いでくれている、

やっぱりじっとしていると我慢できませんね、

少し気合を入れて早足で歩き出す、橋を渡ると護岸のプロムナードと

名づけられた散歩道を歩きます、

ところが、川というのは、都会の風の通り道なんですね、

まともに正面から北風を受け止める、

「まだまだ、そのくらいじゃ負けないぜ」

まったく散歩もここまでくると格闘技ですよ、

一時間ほど歩くと、身体のの方は温まるのですが、

その温まる速度より、風によって奪われる体温の方が

どうやら早いようで、ガタガタと振るえが止まらなく

なりました、

本日の実験は終了、

やっぱり、もう一枚コートを着ないと無理ですな、

明日は、コートを着てもう一度川べり散歩を試してみましょうかね、

そうと決まれば、何も痩せ我慢してることはありませんでね、

都会のいいところは、ちょっと角を曲がれば、温かいも食べ物屋が

軒を並べているのですから何の心配もありませんですよ、

こういう寒い日は 鍋焼きうどん に決まってまさね、

下町深川の暖簾を潜れば、其処は南国ぽかぽか陽気、

「おばちゃん、鍋焼き いっちょ!」