連日の暑さが身体に堪えますね。

こういう時に訪ねる場所は、東京にだってございますよ、

コンクリートの照り返しを避けるように鬱蒼とした森へ

逃げ込んでくると、お線香と花を手にした二人連れと擦れ違う、

東京下町生まれの母は、律儀に新暦でお盆の迎え火を

焚いていたことをふと思い出す。

二年前から、旧のお盆に迎え火を焚くことに変えてしまった

ことを母はまだ納得していないのかもしれない、

阿弥陀堂で手を合わせ、慌てて戻って来ないようにお願いをする。

山門の石碑に『不許葷酒入門内』の文字、

酒の持ち込み禁止は判るが、『葷』とは何ぞや・・・

もう一度戻って住職にお尋ねすると

「生姜(しょうが)、辣韮(らっきょ)、 葱(ねぎ)、

大蒜(にんにく)、韮(にら)を五葷といってこれらを食べると

『淫を発する』から修行の妨げになるので酒とともに

 持ち込みが禁止されておるのです」

というと、精がつきすぎるから駄目だというわけですな、

みんなアタシの好物ばかりじゃないですか、

そういえば今朝は生姜の醤油漬けを食べ、

昼は蕎麦にたっぷり葱をいれてすすってきたばかり、

こりゃまずいと、お礼もそこそこに山内からあわてて

出てまいりました。

辣韮も好物だし、ステーキには大蒜を

と修行の道に外れたものばかり

食してお寺さんをうろうろするのは

慎まなければと反省しきりでございますよ。

それにしても一向に『淫を発する』兆候は

ございませんですよ。

なに、老人には関係なかろう とおっしゃるのですか、

哀しい現実ではございませんか、

なんだか急に老け込んでしまったような気分で

墓石の傍で一休み、

偶然にも其処は牧野富太郎博士の墓標の前でしてね、

文久2年4月24日(1862年5月22日) - 1957年(昭和32年)1月18日)

すると94歳の大往生だったのですね、

あやかりたい と手を合わせる東京散歩でございます。

それにしても暑いですね、どこかで水分補給しないと年寄りは

干からびてしまいそうですよ。

谷中 天王寺にて