五月の声を聞くといよいよ下町夏祭りの始まりです、

祭りは時代を映す鏡なんです、世の中が平穏であれば

その平安が続くようにと人々が集まりににこやかな表情で

人の和が自然に築かれていくでしょう、

しかし、ひとたび震災や災害が起こると、人々は神の

恐ろしさを身に感じ、時には自粛して祭りそのものを

止めてしまうということも起きてしまうのですね。

時とは神そのものではないかと感じるのは私だけでしょうか、

気持ちが落ち込んでいる時こそ、みんなの絆を確認しあう祭りが

大切なんだと気づき始めるのかもしれないですね。

あの大震災から二年目の夏、

「被災地の皆様の一日も早い復興と御安寧を

  心から御祈念申し上げます」

と各地で祭りが復活し始めたのは、

祭りが世の中を映す鏡であることの証のような気が

してならないのです。

いつもなら、下谷神社から始まる下町の夏祭り、

今年は気持ちもあらたかに、鉄砲洲稲荷神社の例大祭に

参拝しようと決めておりました。

東京の京橋、八丁堀、東銀座地区を氏子に持つ鉄砲洲稲荷神社、

今年で御鎮座千百七十七年目の大祭です。

三年に一度の御本社神輿渡御が行われる鉄砲洲稲荷神社、

朝七時三十分、「弥生会」の皆さんが揃いの法被に

新緑色の鉢巻もいなせに続々と集まってまいります。

本殿に参拝を済ませると、今年はどうやら御本社神輿だけが

本殿前に設えられておりました。

どうやら今回は御鳳輦は出されないようです。

実はアタシも学生時代アルバイトで新富町にあった

会社の社長さんのお抱え運転手をやっていたことが

ありましてね、

この鉄砲洲稲荷神社さんへも何度も参拝に伺って

おりましたが、その当時は確か本社神輿渡御は

行われていなかった記憶がありましてお尋ねすると

50年程は出来ない時期があったとのこと、

なんだかとても懐かしい気分で、朝の爽やかな空を

眺めておりましたよ。

一同が勢ぞろいしたところで、神事が続き、宮司の祝詞奏上、

各団体の玉串奉奠が滞りなく終わると、いよいよ本社神輿の

宮出しです。

その宮出しまでのつかの間、

この本社神輿はあの勘三郎丈の十八代目襲名の際に、

一緒にこの担ぎ棒に肩を入れたという所縁があるのだと、

その時の手拭を広げて話を聞かせてくれましてね、

それに、前々回の大祭は、あの旧歌舞伎座が終わりになる

時期と重なり、前回は、新しい歌舞伎座の新開場柿葺落と

重なるという何かと歌舞伎に縁のある祭りになりましたね。

いよいよ緊張の瞬間がやってきました、

一本締めの後、若頭の木の音が響くと、掛け声と共に神輿があがった、

見事に晴れ上がった青空に、朝日を浴びて神輿が輝いている。

それにしても、静かで格式のある宮出しです、

暴れるだけの宮出しとは一線を画している気が充満している

担ぎ手の気持ちの入った神輿振りがとても気持ちのいい祭りです。

次の町内に無事神輿を渡し終えたところを眼に焼き付けると

いったん仕事場へと戻り夕方もう一度お訊ねいたしました。

今年の夏祭りは鉄砲洲稲荷神社素晴らしい宮出しで始まりました、

続々と続く江戸の祭りの楽しさに心が弾みだした祭り旅の途中です。

(2019.05.04記す)