このところ祭りの楽しみ方が変わってまいりましてね、

江戸の祭りは神輿を担ぐのが当たり前、ところが現代の東京は

張り巡らされた電線のお陰で山車が通れなくなってしまいまして、

仕方なく高さのない神輿が中心になってしまったようでしてね、

昔から江戸の祭りは江戸型と言われた大きな山車が曳き廻されて

いたのですからね。

その神輿を追いかける祭り旅を続けているうちに、この混雑に

ついていくと疲れが溜まっちまうのですよ、もっと違う

楽しみ方はないかと探していたら、

「そうだ、これから始まる祭りの前に必ず祭り支度をするはず、

その祭り支度の様子を見に行きたいな」

鳥越神社の祭りというと千貫神輿の宮出し、宮入りばかりが脚光を浴びて

しまいますが、祭礼は神輿担ぎだけではありませんでね、

祭りの支度は祭りが始まっちまうと、誰がこの神輿をきちんと

飾り付けたか、担ぎ棒がしっかり取り付けているかなんてことは

誰も気にしちゃいないのですよ、でもね、もしもあの担ぎ棒の

取り付け方に不足があったりしたら、大事故に成りかねないのです、

人間とは哀しい生き物でしてね、たったひとりでいると静かで、物思いに耽ったり

するのに、その同じ人間が徒党を組むと突然性格までが豹変してしまうらしいのです、

その姿が現れてしまうのが祭りの神輿担ぎなのかもしれませんね、

理性が効かなくなった時の人間ほど手の付けられないものはありませんですよ。

昔から江戸っ子は 口先だけでハラワタはなし といわれたものですが、

その口先でわめいているうちに、自分の言葉で興奮して抑えられなくなっちまう

のですから神輿の支度は拠りに拠った仕方が要求されるわけでしてね。

さて今宵は宵宮清祓式、

厳かに神事が終わるといよいよあの千貫神輿の異名を持つ大神輿が

引き出されてまいります。

こうして目の前で見ると大きいですね、神輿の渡御が始まっちまうと

近くに寄る事なんか出来ませんからね。

この神輿支度を見ようとちゃんと人が集まっておりますよ。

どうやら今年は担ぎ棒の黒漆が塗りなおされたようで、夕暮れの

境内でひときわ輝きを増しておりますな。

この担ぎ棒も太くて重そうですよ。

鳶の頭が見守るなか、いよいよ担ぎ棒の取り付けが始まります、

若衆八人係りで担ぎ棒が結ばれていきます、

さすがに結び縄(麻縄)も太いですよ、木槌で何度も叩きながら

縄を締め付けていくと、ギシギシと縄が悲鳴のように音を立てるのです、

木槌の持ち手を縄に絡めてテコのように締め付けるのです。

縄は重ならないように担ぎ棒に食い込んでいく、

もしも、この縄の締め方がゆるかったりすると、神輿を担いでいる時に

大惨事が起きかねないのですからみんな真剣ですよ。

何時間もかかって、担ぎ棒の取り付けが終わると、飾り紐が取り付けられ、

鳳凰が飾り付けられるのです。

全ての飾りつけが終わると、日曜日の本番まで神輿庫の中でその瞬間を

待つのです。

日曜日の午前零時、全ての灯りが消され、暗闇に中で神輿御霊入れの儀が

行われるのです。

どうか今年の神輿渡御は、粋でいなせな神輿振りを見せてほしいものですな。