『春風の花を散らすと見る夢は

   覚めても胸のさわぐなりけり』    西行

 『山里はかすみわたれるけしきにて

  空にや春のたつを知るらむ』      西行

先日、甲斐路の旅で桜と祭りを同時に味わうことができましてね、

こんな幸せな気分を一人で味わっていては申し訳ないと

思っておりましたところ、再び同じような日が巡ってきたので

ございますよ。

西行さんにも負けぬ櫻狂いの旅人としては寝ても覚めても桜に入れ込んで

おりますでしょ、

今回は、秩父路の春を旅しようというわけで、桜と春祭りの

両方を目指して一路秩父へ。

秩父はぐるりを山に囲まれた地、何処から向かっても必ず峠を

超えなければ辿りつけないのです、

しかし、今はどうでしょうか、峠にはトンネルが貫かれ、

あっと言う間に秩父へ到着してしまうのです、

今回の旅は、秩父の町からさらに分け入った奥の小鹿野地区です。

この小鹿野地区は鉄道では行きつけないのです、

通いなれた秩父路ですから、やはり車にいたしました、

ただし、便利なトンネルは迂回して、細い山路をのんびりと

上っていくと、まさに新緑の山に桜がちらほら、

嗚呼!山桜がこんなに麗しいなんて・・・

梅と桃と桜が一緒に咲くため春がきたことを喜び合うという町が

あります、福島の三春という町で、その美しさに何度も通った

ものですが、ここ小鹿野も春を告げるために桜、花桃、そして

ヤシオツツジが一斉に咲くのですね。

そしてなにより春を待っていたのは小鹿野の皆さんなんです、

春が来たことを喜び合う祭りが四月の第三土曜日に

小鹿神社の例大祭として開催されるのです。

前日の宵宮はあの小鹿野歌舞伎が町の中に屋台を置いて舞台を

作り上げ舞台歌舞伎を演じるのです、

勿論、小鹿神社の奉納付け祭りなのです。

昨年は上町の若衆歌舞伎役者による

『菅原伝授手習鑑  吉田社頭 車曳之場』

を見せていただきましてね、

夜の更けるのも忘れて堪能させていただいたのです。

小鹿野ではもう一箇所、春日町の歌舞伎も演じられていたのですが

時間が同時進行ですので一年待って今年こそ舞台作りから歌舞伎まで

じっくり観てみたいものとやってまいりました。

車を指定の学校の臨時駐車場に止めさせていただき、歩き出します。

あの聞きなれた秩父屋台囃子が遠くから聞こえてきます。

その屋台囃子に導かれるように本通りを行くと見えてきました、

屋台を中心に芝居舞台を作り上げていく過程は昨年の八幡神社の

祭礼でも見せていただきましたが、こちらの春日町屋台はその大きさといい

豪華さといい舞台を見ているだけで惚れ惚れいたしますな。

さて長丁場になりますのでここで腹ごしらえをしてまいりますよ。

2016.04.16
小鹿野春日町にて