ミズナラの森を抜けると目の前に広がるはずの湿原は

まるで絹のベールに包まれたように静まり返っていた。

夏の夕暮れは、山上の沼の辺は雲が湧き雨に見舞われるのは

いつものこと、

しかしどうでしょう、湖面を覆った絹のベールは漂うことを止め

てしまったようにますますその白濁の色を深くしている。

頬に当たる風もなく、細かい水滴は佇む人の身体を包み、

気がつけばしっとりと濡れそぼっている。

ベールの中に微かに浮かぶ紅色は今が盛りの蓮華躑躅、

梢の辺りで不如帰の声が哀しい・・・

「ポチャン!」

小さな波紋が広がった

姿を現したのはカルガモの雛、

ひとつ、ふたつ、みっつ、・・・

四羽の雛が揃うと母鴨の後ろを泳ぎながらふたたび

霧のベールに消えた。

夏の夕暮れは遅い

白いベールのその中で、もしかしたらこのまま暮れずに

白夜となるのだろうか

霧の中にかすかに浮かぶ木道を歩いて行けば、

あの先は何処に続いているのか、行ってみたいような

気になっている、

音が消えた、

何も見えないすぐその先で、白い道が

プッツリと消えていた。

何処へ続くかは半分わかっているさ

掻き分けて進んでいけば父や母に会えることを・・・