今宵は中秋の名月、

旧暦の8月15日は日本人には特別な日、

十五夜の月を「中秋の名月」と呼び、

薄、月見団子・里芋・枝豆・栗などを盛り、

月の出を待つのです。

そして今宵は新暦の九月十五日と満月が重なった日、

案外、あるようで中々無い日なんですね。

満月は毎月あるので、そんなに有り難味はありませんでしょ、

ところが、数ある満月、時には月に二度も満月が眺められたり

と月を愛でるのも結構忙しいのですがそれでも旧暦八月十五日

の月はその眺めるによい角度といい、澄み切った秋空に輝く

美しさに、日本人は昔から特別の月として眺めたのですね。

しかし、いつでも思う通りに顔を出してくれないのもまた月、

雨にたたられ「雨月」で終わることもあるのです。

旅を続けていると、旅先で「中秋の名月」に出会う

ことがあります、

磯原の海から上がった大きくてまん丸の名月、

三州足助の旅館で、厚い雲に阻まれ、諦めて部屋に戻ると

「出ましたよ!」という仲居さんの声で見上げた名月、

薪能の能舞台の上に上がった名月も素敵でした。

案外、諦めていたのに雲間から顔を出した時などは

思わず歓声をあげてしまいます。

やっぱり、日本人にとっては「中秋の名月」は

特別なモノなのですね。

「夜からは雲が多くなり雨」

天気予報は月見にはあまり芳しくない旨を流し続けている。

向かった先は蔵の町、蔵の大屋根の上に上がる「中秋の名月」を

眺めようという魂胆なのです。

「雲が覆ったからって、月はちゃんとあるわけですよ」

今までも雲に阻まれ、諦めかけたその時、雲間から

顔を出す名月に何度も出会ってきたのですから、

今夜だってきっと・・・

東の空が気になって何度も見上げる、その度に

何処から湧き出すのか雲が棚引いているんですよ、

「このままいくと、ダメかもしれないな」

その時は、夕焼けを楽しんでいけばいいさ と

気楽に蔵の町を散策、余りの蒸し暑さに、何時も寄る

店の軒下ベンチで、マンゴジュースで水分補給、

「今宵は月見酒だろう」

なんて、呑兵衛の戯言が何処からともなく聞こえそう・・・

ああ、やっぱり秋ですね、

日の入りが随分早くなっていますよ。

此の時期は、陽が西の空の向こうへ沈むと、

間髪いれずに東の空に月が浮かぶんです、

蔵の町はサツマイモの産地、

お芋を飾ってじっと月を待つ

なんて気分のいいのでしょうか、

空に浮かんだ雲を紅く染めて今日の太陽が沈んだ、

茜色がエモイワレヌ美しさ、

振り向けば、どうですあんなに厚かった東の空の雲が

何処かへ消えているじゃないですか。

「さあ、来るぞ!」

 月みれば千々に物こそ悲しけれ

   我が身ひとつの秋にはあらねど

          大江千里

月を眺めながら、哀しい気分に陥る人が居るかと思えば、

 この世おば我が世とぞ思う望月の

  欠けたることもなしとおもえば

     藤原 道長

なんていう、嫌味の代表のような人もいるのでして、

庶民の暇人としては、何も考えずにボーッと眺めるというのが

丁度いいのでございます。

「ゴーン!」

時の鐘が鳴り響いた時、昔町の屋根の上に

「中秋の名月」

今年も逢えましたよ、

 月はやしこずゑはあめを持ながら  芭蕉

どうやら今宵は夏の果てか、

明日からは間違いなく秋の雨らしい、

十六夜の分まで、じっくりと見上げた空に 

くっきりと今年の名月冴え渡り・・・。

平成28年9月15日 川越にて