『小村井は亀戸より四、五町巽の方に在り比の所に
 香取の社あり その傍梅園ありて満開の節は薫風
 馥郁として行人の鼻を穿つ 実に新古の梅屋敷に
 も倍したる勝景・・・』
     安藤広重「絵本江戸土産」より

昨日の夏のような陽気は何処へやら、再び真冬に戻って

しまった東京は下町散歩、まるで寒修行のようじゃございませんか、

老人は炬燵にでもひっ包まっていればいいだろうに、新たな楽しみを

見つけてしまったものですから、今日はこの路地、明日はあの路地と

徘徊が始まったというわけでございますよ。

何がそんなに面白いか・・・

そう大上段に切り込まれると、照れてしまいますよ、

大したことじゃございませんですがね、

あなた、下町のど真ん中にとんでもないものが

にょっきり、そうあの下町には不釣合いな世界一になろうかという塔で

ございますよ、

戌も歩けばナンとやら、爺だって歩けば路地から見上げる塔ばかりじゃ

なくて、珍しいモノや、懐かしいモノ、無くなっちまったモノの昔話

なんてモノにも出会ったりするんでございますよ。

それで、今日は何が見つかったかって、

季節は今や花の候、と云ったってアタシの大好きな桜にはちと早過ぎますよ、

先日、お邪魔した喫茶店の女店主が

「あんた、今が見頃よ」

と教えてくれた梅園、

江戸の昔から梅の名所として名高い小村井梅園、

あの安藤広重も浮世絵にしたためたというのですから

一度は見てみたいと願ってみても、アタシの親父も命からがら

逃げ惑ったという明治43年の大洪水で全滅、なんだ夢幻かと

思っていたら、小村井香取神社の宮司様が規模こそ昔の梅園

には比較できませんが、姿のいい珍しい梅ノ木を120本ほど

植えて「香梅園」として復活させたと云うのでございますよ、

その喫茶店からは散歩の続きのような路地の先に、

ございましたよ梅の園、

  梅が香に 追いもどされる 寒さかな   松尾芭蕉

悴む手を摩りながらの梅見は、風流でございますな、

墨田 旧小村井梅園にて