東京にもこんなに広い空があるんですよ、

土手の上には大人がじっと佇んでいる。

「何が見えるんですか」

その大人の人は指を指すと

「わたしの昔ですよ・・・」

その背中には人生のしがらみが絡まってるようでした。

そっとその隣に立つと、

「おお、少年野球じゃないですか」

「あんなに立派な野球道具もユニホームもありませんでしたが

日が暮れるまでみんなで大声出していました」

ノックのボールが空に浮きあがると

そのボールを追う少年の眼がキラリと光った。

次の少年は目測を誤ってバンザイさ、

「もうイッチョ!」

コーチの大声が飛ぶ、

少年達が真剣になれることが此処にはあるのですね、

少年達の動きを見つめながら二人で土手の上を歩く、

「わたし等の頃はあれは無かったですね」

サッカー少年達の元気な声が溢れている。

サッカー少年達は、私達の見つめている土手の上まで

駆け上がってはまた下る、

「この土手は絶好のトレーニング場なんですよ、

 わたしもやりましたよ、うさぎ跳びでしたがね」

その大人の人は遠くを見るように何度も頷いていた。

「あんなに沢山いるともだちも大人に近づくにつれて

 ひとり減り、二人減りして最後はひとりになるんですよ」

「・・・・・・・」

「あの頃は、子供のままならいいなって想っていたんですよ」

「きっと、幸せな時間だったんでしょうね」

「夢中になれることを持ったことがあるかどうかで、

案外大人の孤独は乗り越えられるような気がするんですがね」

「きっと、頭ではなく、身体が覚えているからではないですか・・・」

あの少年達も、30年後、いや50年後にきっとこの土手の上で

じっと見つめていますよ、あなたと同じようにね、

それが、友達を持ったことのある人間の人生の記憶でしょ。

振り向くとあの634mの塔がすっくと建っている。

「何十年後、あの塔を見上げる度に、一緒に汗を流した友達を

思い出しますよ。どんな人生を送ろうとも・・・」

野球場からもサッカー場からも

少年達の歓声が聞こえていた

アタシ等も姿は随分変わってしまったが

まだ少年時代の名残が少しだけ

残っていいたのかもしれない・・・

荒川土手にて