この国は何処までも旅を続ければ必ず海に行き会う、

そう、旅の終着は海になるのですね。

東京に生きる者にとっては太平洋が一番身近な海に

なるのですが、それでも便利になった高速の乗り物に

飛び乗れば3時間と掛からずに日本海の海を見ることさえ

可能になる。

時間を短縮できることが有効な手段だとは思わないが

その高速な乗り物によって手にした時間を何もせずに

ボーッと海を眺める時間に使って見るというのも

またある意味贅沢な旅と呼べるのかもしれない。

東京から車で2時間、仕事を一段落させて出かけてみると

冬ならこの港に到着する頃にはもう星が瞬き始めているのですが、

長くなった夏の陽射しは西向きの港に真っ向から照りつける。

灯台の下の見晴台には、手をつなぎあったカップルが、

子供を連れた家族が歓声をあげて見つめている。

日没まではまだだいぶ間があるその港に、一日の漁を終えた

働き者を乗せた船が、一艘、また一艘と戻ってくる。

美しい航跡を残して港に戻った船がやがて岸壁に係留されると

波の音だけが辺りに響くだけの港をいくつもの瞳が見つめている。

じっと見つめていた小児が指を差して

「パパ、また戻ってきたよ」

それは夕方の陽射しを浴びて美しい航跡残しながら港に入ってくると

この高台から見つめる観客に応えるように、右に左に踊るような

仕草を見せて到着した。

何だか流れ星を見つめているような美しさです。

いつ戻るか判らない次の船の姿を求めて誰も帰ろうとする者はいない。

丸く見える水平線にぽつんと現れた点をその幼児は見逃すことは

なかった。

「パパ、また帰ってきたよ」

その子の声にその場に居合わせたすべての人が同じ方向を見つめた。

思った以上に早くその点は見る見る内に船の姿になると、その細い

港の入り口から港に戻ってきた。

そこにいた人々から小さな拍手が沸き起こった。

まるで舞台をみているような観客は、やがてひとり減り

二人減りしてとうとうアタシ一人になった時には

西の空に太陽が沈み始めていくのでした。

九十九里 飯岡漁港にて