歌舞伎役者の流し目にすっかり入れ込んでしまい、

江戸のご隠居ってな気分になっちまいましてね、

舞台がはねるやいなや、

「こうしちゃいられねぇ、祭りが終わっちまう」

と江戸は湯島の祭礼に馳せ参じるのでありますよ。

そもそも祭りとは、人心を狂気へと誘うにこれ以上の

ものはありませんでね、

祭り衣装を煌びやかに着飾り、見せびらかしてた連中も

祭りもいよいよお納めの宵となれば、気が違ったかの

ような声張り上げ、四方八方から寄り集まった見物人も、

押し合いへし合いあっちこちに摺りタコができそうな大騒ぎ、

祭りなど我れ関せずとそろばんはじいていた大店の旦那衆も、

あの鳴り響く祭り囃子に、そろばん投げ出し表へ飛び出してくる、

まさに 祭りは狂を発出するのでありますよ。

(奉納 白梅太鼓)

近頃じゃ、植物性男子なんて揶揄される現代っ子も、

せめて祭りの時くらいは男だてを真似でもいいから

やってみるといい、

なに、男だて も知らないのかい、

それじゃ耳の穴カッポじってよく聞きなよ、

 『度量がでかく、意気込みがメッポウ強く、

  財を軽ろんじ、何事にも命をかけ、

  一度承知したことには最後まで責任を持ち、

  強気をくじき、弱いものを助け、

  身に降りかかる火の粉を払いのけ

  一心不乱に突き進む、これが本当の男だてだ!』

あれ、みなまで聞かないうちに青い顔して逃げていっちまったよ。

神輿のまわりじゃ、男だてが集まって最後の宵の神輿振り、

せめて祭りの三日くらいは、身過ぎ世過ぎを忘れてみたいじゃ

ないですかね、

力尽きる寸前で、見事に神輿が納まった、

三本締めが鳴り響き、大歓声が夜空に吸い込まれていく。

上気した男だての顔・顔・顔

こうして湯島の祭りが終わりを告げる。

(奉納 江戸里神楽 松本源之助社中)

祭りの三日間、何度目かの男坂を登り、

本殿にて参拝を済ませます。

子供達の祭りを惜しむ姿に祭りの未来を想う、

やがて、男だてに育った若衆が本社神輿を揺らす日が

必ずくるでしょう、

祭りのあとの寂しさをそっと胸に収めて

夜の繁華街へと歩き出す。