いよいよ梅香る季節、暇人おじさんの散歩も

なんとなくウキウキするじゃありませんか、

近頃は隅田の川を渡り、向島から亀戸にかけて

梅見散歩というのが楽しみなんですよ。

江戸の昔から小梅村といわれた墨東界隈は梅香原と呼ばれ

昔も今も春を待ち焦がれる気分に満ち溢れているんですね。

小梅橋、小梅小学校、小梅稲荷、小梅すし、小梅そば・・・

彼方此方に梅にちなんだ名前が昔を忍ばせますな。

そうそう小梅小学校は堀辰雄や佐多稲子さんの母校でしたね。

小梅の響きに誘われて吾妻橋をわたれば、

大川を吹き抜ける寒風をまともに受けて身をちじめながらの寒中散歩、

やってきたのは亀戸の天神様、

早咲きの梅が馥郁と香る花天神、

受験生は願いが叶ったのか、さっぱり姿はなし、

なにやら真剣に手を合わせていたのはうら若き乙女、

「うーん縁結びか」

 とおじさんは優しい眼差しを向けるのでありますよ。

桜見物は春爛漫がお似合いですが、

梅見は寒さに耐えながら香りに誘われて

にじり寄っていくなんていうのがよろしいようで、

買い物帰りのおばちゃんが、娘時代に戻ったような素振りで

梅の木の下で目をつぶったりして・・・

傍で見つめていたおじさんの視線を感じて妙にテレたり、

やっぱり花の威力は確かなものでございますよ。

先月も初天神に伺ったばかり、今年は鷽替えの鷽鳥を買い損ない

まして、日頃からウソ八百並べてる身にはなんだか気がかりで

ございます、

どなたかがそっと置かれていった鷽鳥がウソでまるまる太った姿で

鎮座されておりますな、

「しっかりウソを抱えていっておくれ」

と小さく声を掛ける。

そこへほのかな梅の香り、

(青軸冬至)

 『東風吹かば にほひおこせよ 梅花

     主なしとて 春を忘るな』  菅原道真

大宰府の飛び梅の実生を持ってきて植えたという

亀戸天神の飛び梅も今が盛りなり、

まさに

「梅一輪、一輪ほどのあたゝかさ」服部嵐雪

でありますな。

(東雲)

『春の夜の闇はあやなし梅の花

   色こそ見えね香やはかくるる』凡河内躬恒

闇夜を麗しくするのは梅の香りと恋の世界では昔から

定番だったんですな、

 雪の舞い散る闇夜の恋は

  梅の香りに身を任せ  散人

そんな古風な女性はもう何処にもおりませんですかね。

ぶつぶつ呟いているおじさんの横を、

不審者を見るような

つりあがった眼差しでお姉さんが避けていった

梅見散歩の途中でっせ、

「ふーぅ寒い! 心まで凍りそうですな」

亀戸天神にて