日本の祭りの中で大麻が大変重要視されていることは、

誰でも気づかれることでしょう、

大麻を間違っても たいま なんて呼ばないでくださいよ、

大麻をオオヌサと呼んでいただけると、うん、この人は

日本人であると見直されるくらい大切な神の依り代と

わかっていると思ってもらえますからね。

「ぬさ」とは神への供え物や、罪を祓うために使用する物のことですが

今は神職の方が御祓いの時に、白木や榊の先に房状の

白紙をたらした幣を振って祓いをしてくれたり、

神輿の前で、この幣を持っている人が必ずいるので

すぐに目に付くと思います。

本来はこの垂らした紙の部分は大麻で作られていたんです。

さてこの大麻、日本人には神話の時代から大切に守られてきた

ものなんですね、

「天の岩戸神話」の中で、天照大神は天岩戸に隠れてしまうと世界中が

闇に覆われてしまいます、何とか天照大神に出てきていただこうと

アメノウズメノミコトが裸踊りをしたり、集まった神々が大笑いしたり

と大騒ぎをしている中に、忌部氏の祖である天太玉命(アメノフトダマノミコト)

が天照大神の気を引くために大麻の先に勾玉などを飾り付けて捧げていると、

大麻の先に、一羽の鳥が舞い降りたといいます、これは吉兆と神々が大喜び

したというのです。

多分、大麻は大変生命力の強い植物で、神話の世界から日本人の心の支えとして

敬われていたのでしょう。

現在でも、神社の祭礼に大麻の幣が大切にされるには、長い歴史がその裏に

あったということなんですね。

さて、その大麻を神社の名にもつ行方の大麻神社の祭礼をお訪ねいたしました。

行方と書いて ナメガタ と読みますが、この地は常陸風土記に記されるほど

昔から地味豊かで人が穏やかに生きるに良い土地でもあったのです。

そして何よりアタシの大好きだった母方の婆ちゃんのふるさとでもあるのです。

「アタシは13歳からたばこ吸ってたよ」

なんて平気でいう婆ちゃんで、波乱万丈の人生を乗り越えて九十八年の人生を

全うした生き方も凄かったのですが、事あるごとに、人生の節目節目で

生き方を教授してくれた人でもあったのです。

その婆ちゃんのふるさとの祭りですから、なんだか他人事とは思えないでは

ないですか。

この行方では夏には八坂神社の馬出し祭が行われ、秋には大麻神社の祭礼が

あるのです。

今回は神幸祭に参加させていただきました。

玄通、蒲縄、下淵、田町、宿(本城)の五地区が一年ごとに年番を勤めるのは

佐原祭りと同様ですが、規模が小さいため誠に親近感のある祭り振りなんですね。

今年の当番区は宿(本城)、大麻神社を渡御した宮神輿は二日間本城区の御仮殿に安置され

いよいよ本日、還幸祭が行われるのです。

大麻神社の祭礼は山車曳き回しが盛大に行われるのですが、祭り三日目は

還幸祭のみで、山車は一切登場しないので、いたって静かな中で、粛々と

神輿還御が行われるのです。

猿田彦を先導に幡、大榊に続き、大麻(おおぬさ)、神輿が続きます。

稚児さんも正装に身を包みきちんと同行、ちゃんと子供達の神輿もございますよ。

本城区から大麻神社までは約1.5kmほどの距離ですが、路は上り坂で

担ぎ手の人数も限られているため、途中休憩を挟まないと、とても神社まで

たどり着けませんですよ、

公民館前で大休止後、いよいよ神社に向けて出輿です、

宮神輿は当番区の氏子さんだけで担ぐのが仕来り、

休憩後はだいぶ元気が出てまいりました、

「ワッショイ ワッショイ!」

いよいよ上り坂にかかります、

何しろ交代要員がいないので、段々声もでなくなるんです、

すかさず役員さんから

「もう一度、休憩!」

さあいよいよ、大麻神社の宮入です、

もう担ぎ手のみなさんは、腰も足もふらふらです、

参道の階段を最後の力をふりしぼって担ぎ上げ、無事宮入りを収めることが

できました。

宮司さんによる祝詞奏上に続き、役員さん感謝の言葉のあと、年番交代式、

来年は玄通区です。

その本城区の役員さんにより 玄通区役員さん立会いの上神輿改めが行われ、

神輿の引渡しが完了、三本の手締めで神事は無事終了となりました。

ここからは、神輿を神輿庫へ本当の宮入り、「もっと右だ!」とあちこちから

声の飛ぶ中でその宮入も無事終了、もう当たりは夕闇が迫っておりました。

さて、このあとは直会のお神酒が振舞われ、

再び神輿と一緒にやってきた路を揃って戻っていくのです。

手にした役員さんの提灯の灯りがまるで神の灯りのように揺れ動く様が

なんと美しいのでしょうか。

今までもこうして手間のかかる祭り事を延々と続けてきたのですね、

明治生まれの婆ちゃんもきっと見つめていただろう祭礼は、また来年も

さらに次の年も、そして永遠に続いていくだろう予感を感じながら

棒のようになった足を引きずりながらの祭り旅の途中でございます。

見上げた夜空に美しい上弦の月・・・

(平成27年10月 行方大麻神社にて)