昨日の忠実な再現のように黒雲が湧き起こると

閃光が走る、

「カリカリッ ドカン!」

足元に水煙が上がるほどの大雨がすべてを押し流す、

「ヤレヤレ 世の中どうかなっちまったのか」

と窓の外を眺めている。

半時もしないうちに小降りになってくると意を決して

歩き出す。

雨が降ろうが、風が吹こうが、15年も続けている一日一事の

散歩を中止する理由にはなりはしない。

突然降り出した驟雨なんてものは一日中降り続くことなどない

ということを身体が知っているのですよ。

こっちもれっきとした老人ですから用意の大振りの傘を手に

歩き出せば、街から立ち上るのは意外にも心地よい冷気、

蒸し暑さを覚悟していたのになんとありがたい天候じゃないですか。

あの雷雨の時は街から人の姿が消えてしまっていたのに、

いつのまにかどこからともなく人が湧きだしてくる、

みんな雨宿りしていたんですね、

雨宿りといえば軒下の狭い空間だけのイメージしか持たない

老人には大都会の雨宿りはビルの中だと気づかされる、

デパートの中から人が吐き出されれてくる。

地下街の階段から人が登ってくる、

空を見上げたそれぞれの人に安堵の表情が浮かぶ。

先ほどの大雨の残した並木のしずくが襟首にポツリ

思わず身をちじめてしまう

残り雨が霧のように顔にかかる、

化粧を気にした娘が傘をさす、

いつもなら早足で駅に向かう勤め人も心なしか

ゆっくり歩いている、雨の後の冷気を感じ取っていたのかも

しれない。

路地裏の「ルパン」の看板に灯りが点る、

短夜のはずの夏の夕暮れが今日に限って早くやってきたようだ、

路地の中から細長い空を見上げた、

もう雨はあがっていた、

まさに 驟雨日を終えず なるかな。