さてと、今年の酉の市は三の酉までありますでしょ、

たまには浅草を離れて他所様の酉の市をお参りするのも

また一興かとやってまいりました新宿は花園神社でございます。

噂には聞いておりましたが、浅草もびっくりするほどの人の波、

内藤様(高遠藩の大名)のお膝元、新宿の大繁華街のど真ん中

という地の利とは凄まじいですな、

なにやら世界を震撼させる大事件が続く嫌な世情をみなさん

敏感に感じ取っているのでしょうか、人の想いの重たい気分を

神様に祈りたい気分が溢れているのでございますね。

浅草で代々熊手を商っていた知人のナベちゃんも、

「こう売れなくちゃ廃業だよ」

と寄る歳並に気力も萎えてとうとう止めちまいましてね、

他人様に幸せを売る商売も辛いご時世でございますよ、

さて、はるか昔から愚痴ってたって幸せになれるなんてことは、

ございませんでね、こういうご時世だからこそ気力を奮い起こして

元気になりたいじゃないですか、

「ハイ、寄ってらっしゃい、観てらっしゃい、

 考えてちゃ何も始まらないよ、

  さーさ、そこのおじさん、あとは観てのお楽しみだよ」

懐かしい見世物小屋の呼び込みのおばちゃんの名調子が響き渡る参道に、

押され押されてまずは神様にご挨拶、それにしても初詣顔負けの大行列で

ございますな、

手抜きはすぐに見破られてしまうのが神様、神妙に並んでお賽銭を投げ入れ

五穀豊穣、商売繁盛をお願い申し上げるのでございます。

二の酉ともなれば寒さを感じ始める季節のはずが、まるで春を通り越して

夏に戻っちまったかと思うばかりの陽気に大汗かきかき人ごみにまぎれて

商売繁盛の気勢の上がる現場を楽しむのも酉の市の楽しみでございますな、

縁起物の買い手と売り手の丁々発止のやり取りが場を盛り上げる

のでありましてね、

「ねえ、あの上から二番目、ちょいとまけてよね」

と太地 喜和子風の御姐さんが流し目で所望、

「えーい、マケマショウ!」

とかなり大き目の熊手が下ろされると、周りからどよめきがあがる、

「それではお手を拝借、よーっ、シャン、シャン、シャン・・・」

どうです、熊手を仲立ちにしてみんな笑顔がはちきれそうじゃないですかね、

縁起物は損得で買うもんじゃないんですよね、

買う!、売った!、という意思が通じたところに自然に元気の輪が出来上がり

そこに居合わせた沢山の人の心にじわーっと溶け込んでいくんですよ、

その元気を貰った人々が、またその知り合いにその元気を伝えていくと

いつのまにかみんなが元気なっていく という学者先生でも理屈のわからない

ことが起きてくるのでしてね、

どうです、縁起物というのは大した効用があると思いませんか。

そこのお嬢さん、自然に目線が上に向くでしょ、

縁起物の熊手を眺めてるだけで、俯いてた姿勢までシャキっとしてくるのですよ、

ほらまた始まるよ、一緒手締めにに加わってよ、

「それではお手を拝借、よーっ、シャン、シャン、シャン・・・」

ほらね、笑顔がこぼれてるじゃないですか、

大きな熊手を肩に担いで、上気した顔のオヤジさんが晴れ晴れしい顔で

人波を曳き連れているじゃないか、

さあ、みんなで元気をとりもどそうよ、

「ガンバレ ニッポン!」

「上を向いて行こうじゃないか」