コート無しでは歩けないほどの冷たい雨が

都会の舗道を濡らす。

レインコートの襟を立て、ボルサリーノを粋に被って

傘もささずに颯爽と歩いたらさぞ格好いいだろう

とは想像してみるが、

「よしなよ、肺炎にでもなれば人生終わりだよ」

と誰かが耳元でささやいていく。

冷たい雨は人を寄り添わせる効果があるんですよ、

前を行く若いカップルは自然に肩を寄せ合っていく。

冷たい雨にも優しさがあるものですよ。

それにしても、大都会ではどんなに雨が降ろうと

ハイヒールで歩けるのですね、

駅を降りて、縦横に張り巡らされた地下道を通れば

濡れることなく目的の店へたどり着けるのですからね。

手を摩りながら傘をさして歩き出す、

もう何処のショウウインドウもクリスマス一色ですな、

晴れた日にはそう思わなかったけれど、冷たい雨の日は

クリスマス・レッドが気をひき立ててくれるものですね。

ガラスの向こうのトナカイと目が合った

「なんだ寒いのか、鼻が真っ赤だぞ」

そのトナカイは照れて下を向いてしまった。

やっぱり震えるほどの寒さは、気持ちだけじゃ

乗り切れませんやね、

呑兵衛オヤジならちょいと熱燗てな気分でしょうが、

こっちはまるっきりの下戸ときてますからね、

「やっぱり鍋焼きうどんにするか」

時計台が七つ鐘を鳴らした夜でございます。