ビルの谷間の路地の角を曲がると

乾いた冷たい風が吹き抜けていく、

思わずコートの襟を立てて人は足早に

通り過ぎていく。

閑散とした大都会の吹き降ろす冷たい風の中に

さっきから佇んだまま一歩も歩くことを止めてしまった

その女(ひと)の肩が小刻みに震えていた。

寒さのせいだけではないのだろう、

その俯いた視線の先には何も無いはずなのに・・・

コートを着ることの無い若者はポケットに手を突っ込んだまま

背中を丸めて足早に何処へ向かうのだろうか、

突然の大都会に吹き下りてきた朔風に人は夫々の思考を止めて

しまったのだろうか。

温かい灯だと思っていた都会の明かりが実はとてつもなく冷たい

ことをまるで知らせるためにだけ吹いてきたのだろうか、

舗道に散らばっていた街路樹の落ち葉を

ひとつ残らず吹き飛ばしていった朔風

たとえ一瞬でも、この街の灯りが消えてしまったら

人はこの冷たい朔風にひとりで耐えることなどできはしない

だから、差し延べる温かい手をしっかり握り締めたいと

思うのかもしれない

そのポケットに隠したあなたの手を冷たい朔風に晒してごらんよ

もしかしたら、本物の温かい手が握り締めてくれるかもしれないから

あの女(ひと)はまだじっとそのまま立ち竦んでいる後姿に

そっと息を吹きかけてみる

すると、その女(ひと)はよろりと歩き出した

ポケットからそっと手を出してね

冷たい街の舗道を足音だけが遠ざかっていく。

朔風とは冷たい北風を言う

しばらく旅に出てみよう・・・

2016.11.15 銀座にて