昨夜の大宴会が夢の中の出来事ではなかったかと、

目を覚ませば朝日がキラキラ上天気、祭り三日目は

まさに祭り日和でございます。

朝の食事で皆さんと顔を合わせると、もう三代前から知り合い

だったみたいにニコニコ顔が揃っておりましてね、

「夕べは楽しかったですね」

「いつ部屋にもどったのかよく覚えておらんですよ」

「もうのど元まで酒が残っとります」

なるほど、唐津くんちに参加した者はもうみんな友人知人というわけですよ。

宵山の夜の曳山、雨の神幸祭、そして大広間での夜の無礼講、

祭り最終日は抜けるような秋空とこんなに変化に飛んだ祭りを

味わえるのはそう滅多にあることではございません。

本日お帰りになる方々とはまるで恋人同士の別れのように

抱き合う人あり、

「また来年お会いしましょう」

中にはもう一晩止まり続ける御仁まで、唐津くんちは悲喜こもごもで

ございますな。

祭り三日目ともなると、各町内の曳山も頭にはいり、唐津神社へ駆けつけると

いよいよ町曳きが始まるところでした。

曳き手の若衆たちも、昨日はあの大雨で途中中止となってしまったための残り火を

再び燃え上がらせ、もう今にも飛び出しそうな顔つきがずらり。

昨夜散々聞いていた曳山囃子の太鼓が唸りを上げると、一番 刀町 赤獅子が

解放された魂の雄たけびをあげて町へと飛び出していく。

「エンヤー エンヤー エンヤー エンヤー」

青獅子が続き、子供達に一番人気の鯛が揺れながら町を目指す。

そういえば、最終日は最後の順番が入れ替わると聞いておりましたので、

今か、今かと待ちわびていると、

第14番 江川町曳山 「七宝丸」が先に出て行った、

やはりあの話は本当でした、

しんがりは第13番 水主町曳山 「鯱」が塩をまきながら参道を

駆け抜けていった。

さて、曳山の後ろをついていってはいけないと教えられておりましたので

路地の細道を抜けて町場にかけつけましょう。

いやいやそれにしても上天気、昨日の雨が悔やまれますな。

それでも曳山が動き出せば、もう誰も昨日のことなど思い出すことも

ありませんですよ。

唐津くんちは場所を決めたらじっと待つというのが見物人のしきたりです、

何度も巡った町の中で 京町の小路に決めて待つことにいたしましょう。

さいわい、素敵な喫茶店を見つけて珈琲など飲みながらの祭り話、

この店の主人は素敵な老婦人、お歳を知ってびっくり、

あたしなぞ、足元にひれ伏す人生の大先輩でございます。

唐津の女衆の生き方をお話いただき、陰で支えるのが唐津女でございます、

とお聞きしてえらく感動してお隣の鬼姫様をそっと見ると、

ワイン片手に、全く動じる風もなし、

へい、あたしはどこまでもついてまいりますからね。

さあ、曳山がやってきます、

太鼓が唸り、笛の音が響き渡る

「エンヤー エンヤー エンヤー エンヤー」

「走れ!走れ!」

若頭の激が飛ぶ、

曳き綱をひく子供達の眼が輝いている、

「あの町内は普段は50名くらいしかいないのさ、それがくんちに

なると日本中から帰ってくるんだよ」

長く伸びた曳き綱に若衆から子供たちまでが貪るように

綱を曳く。

この曳山も、曳き手も、祭り飾りも、みんな自前なんです、

他所の人の力を借りずに祭りをやり遂げるのがこの町の

意地であり誇りなのですね。

「祭りのためにあたしなんか爺ちゃん三度も葬式出してますよ」

会社を休む理由が無くなると其の都度会社に言い訳をして唐津に

戻るのだそうで、人々をそうまでさせる唐津くんちとは、

まさに 唐津人の命そのものかもしれませんよ。

なんだか、この唐津の町が、唐津のみんながとてもうらやましく

思えてまいりました。

祭りはまさに生き物そのもの、

唐津のみなさんにお別れをしたあとでも、

まだどこからか聞こえてくるのです、

「エンヤー エンヤー!

 エンヤー エンヤー!」

またいつか、きっとこの町に戻り気がする祭り旅の途中のこと

でございました。

2015年 秋