Wrote writing a good introduction for a research paper reading primers and texts for school use

「もしかしたら夢の町に変わるかもしれない」

下町の路地の向こうにあの近代建築の塊のような鉄塔が

聳え建った時、下町路地裏のみんなは、大勢人が押しかけてきて

此の町もきっと繁栄するに違いないと思っていたんです。

でもね、現実の方がしたたかでしたよ。

半年が過ぎ一年が経ち、まもなく三年が過ぎてしまうというのに

全く変化はありません。

あの鉄塔の真下には、とんでもない都会が出来上がっていたんです、

一度、あの鉄塔の下の都会の街に足を踏み込んだら、もう誰もあの街から

外へ出てくる人など居ないという現実をこうはっきり見せ付けられると、

さすがに、あれは本当に 夢 だったと気づかされるのでした。

なまじ、どの路地からもあの高い鉄塔が見えるだけに、なんだか

「夢破れて 鉄塔あり」

てなものですな。

でもね、あの鉄塔の街に引きずられて、すり寄っていかなかったことが

今は安堵の心地がいたしますよ。

だってね、この路地にはいまだに銭湯が残されているし、

駄菓子やだってちゃーんとありますよ、

子供達には此処が夢の町なんです。

狭い路地には、昔のような賑わいは望むべきもありませんが、

魚屋も豆腐屋も、酒屋だって、赤提灯の縄のれんの店だってあるしね、

意気揚々と歩き出せば、ちょっぴり懐かしい光景に出会うのも下町の

路地裏なんですよ。

婆ちゃんたちが路地裏の店の前で井戸端会議、

ビルの中じゃ立話しだっておちおち出来やしないよね、

それでもやっぱりシャッターが降りたままっていう店が増えましたね。

中には、若い人が起業する人も居るようですが、

なんてったって、若い人の数より、年寄りの方が圧倒的に多いからね、

あれ、確かここにも店があったはずだけど、今は更地ですよ、

急にわびしくなっちまうよね。

年寄りだけが元気でも、先が見えてるからね、

そういえば、この路地裏商店街は一年中提灯が下がっていてね、

せめて、気分だけでも盛り上げていないと、本当に夢も希望もなくなっちまうよ。

すっかり身体が冷えちまったから、ちょっとそこの 松の湯さん

に寄ってきますよ、

真昼間の銭湯くらい気持ちいいところはありませんから、

こういうのを、夢の町っていうんじゃなかったですかね。

昼間の風呂ってのは、喉が渇くのは自然現象でしょ、

銭湯の二軒先が、古書店ならびに喫茶店でね、

本棚から好みの本を引っ張り出して、美味しい珈琲を飲みながら読書、

これが面白いの何の、店主に聞くと、定価の半分でこの本を分けてもらえる

システムなんだとか。

続きは、家に帰ってから読むといたしますかね。

も一度振り返ると、路地裏の先にあの鉄塔がネオンをつけはじめていた。

あの灯りは希望の光になりうるのだろうか。

思惑は外れたけれど、別段何も変えることをしなかった下町の商店街は

いつもどおりの日々がただ過ぎていくだけ、

変わらないことも、案外居心地がいいもんですよ。

まだ夢の名残りの感じられる 鳩の街の路地裏にて

2015.11.14記す