冬から春に向かうと三日間寒い日もあれば四日間暖かい日がある

というので『三寒四温』などと呼ばれる今日この頃、

梅も咲き、寒桜まで咲き始めたというのにどうしたと

云うのでしょうかね。

今年は『二寒七温』ですっかり身体が春型に馴染んで

しまっておりましたのに急に冬に戻っちまったようで、

老人には堪えますな。

おいおい此処は何処なのさ、

下町の楽園、浅草ですよ、

何時ものように表に出てみてびっくり、

「寒い!!」

それでも散歩を止めないのが真の旅人というものだ」

誰も言ってくれないので、自分で自分に気合を入れて

歩き出せども、どうも気合ばかりで身体に力が湧きませんですな、

不景気にも負けず、雨にも霙にも負けずにトボトボと・・・

げに、歩く姿は切ないものですよ。

こう寒くちゃ閑な爺たちは炬燵で丸くなってると思いきや

どうしてどうしてこの寒空の下、

空ろな目で徘徊しておりますよ。

「ご隠居寒くないのかい」

「寒く無いワキャねーだろ、

  こっちは赤い血が流れてる生身の人間だよ」

「炬燵でも入ってりゃいいじゃないかね」

「ダメ、ダメ、そういう億劫なことしてると

    寝たきりになっちまうんだよ」

「偉いね!区長さんが聞いたら表彰モノだよ」

浅草の元気爺は老人大国日本の鑑(かがみ)でっせ。

町内のご隠居の元気を貰って観音様にご挨拶、

いやいや、元気な爺はほんの一握り、あとは

みんな元気なおばさん、小母さんばかり

いやいや女性のパワーには太刀打ちできませんですよ。

もうこの国はとっくの昔に女性の手に落ちてしまったのですよね。

こうなりゃ、邪魔にならず、密やかに、路地の奥を

這いずり廻って静かに余生を送るってのがアタシ等爺連に

残された道ですかね。

そういえば、源さんの姿が見えませんよ、

どうせどこかの赤提灯で引っかかってるんでしょうね、

「おーい!散ちゃん、こんな日に散歩してると

   行き倒れになっちまうぞ」

いたいた、ウワサをすれば源さん、

ユデダコみたいな顔で覗いてましたよ、

「そっちこそ酔っ払ってひっくり返るなよ、

  家に帰り着く前にお陀仏だからね」

やれやれ、もうしばらくは浅草は冬ごもりでございます。

 浅草は 仁王も震える 霙雨  散人

ってか。

(三年前の浅草は賑わっていたのですな)