忙しげに駆け回っても

のんびりと居眠りしていても

何処からともなくやってきた刻は

誰隔てなく通り過ぎるばかり

気づいて後を追いかけても

こちらを振り向くことはありません

そうして行き着いた先は おおつごもり(大晦日)

心が締め付けられようと

へらへら笑っていようと

刻は何の感情も見せずに

どんな隙間さえも潜り抜けていく

そして気がつけばおおつごもり(大晦日)

それでも何かしら忘れていないか思い悩む

へらへら笑いながらやり過ごしてしまえばいいものを

何かせずにいられないのがおおつごもり(大晦日)

「そうだ、旅の無事を感謝しに行こう」

帝釈天にそっと手を合わせる

何だか急に寅さんに逢いたくなってしまった

「ねえ、寅さん帰ってるかね・・・」

「ああ、さっきそこの路地を曲がっていったから

おいちゃんのところじゃないか」

紙芝居屋のオヤジの薄笑い

「行ってみるわ」

「あまりせっつくなよ、ひとりになりたいのかもしれないからな」

「オバチャン、寅さんは・・・」

「今しがた帰ってきたばかりさ」

と二階を指差した、

「二階か、まさか声を掛けるわけにはいかないね」

「もう少し時間を置いてからの方がいいよ」

町をひと回りしてくると、遠くから寅さんの声が聞こえる

「結構毛だらけ猫灰だらけ。

 見上げたもんだよ屋根屋のフンドシ。

 見下げて掘らせる井戸屋の後家さん。

上がっちゃいけないお米の相場。

 下がっちゃこわいよ柳のお化け。

馬には乗ってみろ人には添ってみろってね。

 物のたとえにもいうだろう。」

やっぱり寅さんですよ

大つごもりに寅さんと一緒になれるなんて夢見たいじゃないですかね

あれ、寅さん何処へ行くのさ、

「はい、ひとさまの休んでいる正月はカキイレでございます、

また旅に出なけりゃなりません、因果な商売でございます」

「アタシも大晦日が仕事納めで元旦が仕事始めですよ」

「そうですか、それじゃお仲間でございますな」

くるりと背を向けると

雪駄の音を響かせて歩いていっちまいました、

明日は何処の町に居るのやら・・・

さてと、アタシもそろそろ行きますよ、

飽きもせずお付き合いいただき有難うございます。

みなさんには来る年が良い年でありますよう旅の空の下で

祈っております。

またいつか旅の途中で御目にかかれますように・・・